「オリエンタルボイス」

「いらっしゃい!」…しがないサラリーマンでしかない俺は、
今日も、いつもの居酒屋に来ていた。就職してから会社に行く日は
仕事帰りにはいつもこの店に通っていた。

もう、ここに通うのも、かれこれ三年目になろうとしていた...
その頃になると、店員さんも俺の顔を覚えてくれて、注文しなくても
席まで運んで来てくれるという状態だった。

俺はこの日も、いつものカウンターの奥の席に座っていた。
「はい、生ビール大ジョッキと枝豆、裂きイカ、お待たせしました。
ごゆっくり下さいませ!」「ありがとう…」俺は、いつもと同じように礼を言う。

「くうぅぅー」…冷たい生ビールが喉に染みるぅ… ビールは味わうものではなく
喉ごしを楽しむものだなと、しみじみと満足に浸り… 喜びを味わいひとり悦に入り、
店の中をぐるりと見回した。…結構、人が入っているなぁ… 向かいの席では、
外国人のゲイなのか、日本人のオカマなのか、分からないが、それ風の二人の会話が聴こえて来る…

外国人の厳ついゲイ風の男は、長く日本で暮らしているらしく、日本語に堪能で流暢に話していた。
「日本の田舎に行くと、子供が凄い見てくるよね。マクドナルドでハンバーガーを食っていた時よ、
小学生くらいの男の子が、俺のテーブルの周りをクルクル回って物珍しい珍獣でも発見したように
見てくる。近くまで来て、ジッと凝視してくるんだよ! 俺、あまり見られるので、日本語喋れるけど、

" Don`t Stare at me! " と、つい口が出ちゃった! そしたら、その子が指さして「ママぁ〜、見て!
外人が、なんか言った!」「ホンマやなぁ〜」とその親が言うよる。何がホンマやねん!(笑)…」
「アハハハ、笑っちゃうけど、でもね、そんなこと言う、あんた!…あら、私だって、昔、フランスの

ド田舎の元カレの家に遊びに行った時、地元のスーパーで買い物していたら、地元の子供たちが、
後ろからゾロゾロとついて来て、ハーメルンの笛吹き男状態になって困ったこと、あんたの話を聞いて、
思い出したわよ! 何処の国も一緒よ! 東京はそんなことはないけど、特に田舎に行けば行くほど…

ド田舎に行けば、どこの国も一緒よ! 私なんかよく中国人に間違われるし、女装して歩いていたら、
オリエンタルビューティーって言われたし、フランス人の元カレには、『君は、オリエンタルヴォイスだね。
魅力的な声をしている。何て美しく魅力的な声なんだ…』って、今となっちゃ笑っちゃうけどね…」

 …聞いていて思わず微笑んでしまう… そんな微笑ましい会話が聞こえてくる居酒屋...