続き

ある日いつもそうしてるように暗そうな兄ちゃんの財布から金を頂戴した。3000円位だったかな。その日は引きが悪かったから
かわいそうだが札だけでなくジャリ銭も残らず貰っておいた。スッカラカンにしてやった。
次に日ふと見ると昨日のそいつの財布が無造作に机の上に置きっぱなしになってる。
やけに子供っぽい財布だったから覚えてたんだよ。
俺はすぐにトラップだと感づいた。顔を動かさず目の動きだけで周囲を見渡すと出入り口のすぐ脇にそいつがいた。
えらい真剣というか怒った顔で自分の財布をそこからじっと見つめている。
俺はせせら笑った。こいつは一言伝えておいだ方がいいだろう。
ノートを一枚引きちぎりラブレターを綴った。
そいつがトイレにでも行くのか自習室を背にして歩いていったので俺は奴の机に近づきノートの切れ端を裏にして置いておいた。
しばらくして奴が戻ってきて席に着き紙切れに気づいた。まわりを見渡しながら手にとって読み始めた。
こう書いておいた。

拝啓
ごくろうさん。空っぽだってわかってるのにお宅の財布なんか狙わないから。
昨日は有り金残らず頂戴しといたからね。いただいた金はステーキのランチ、コーヒー付きに使わせてもらったよ。
たいした肉じゃないが文句を言うほど俺はわがままじゃないからだべる前にちゃんと君にいただきますしといたから気をわるくするなよな。
俺は近くにいるぞ。すぐそばだよ。ありったけの洞察力をつかってまわりを見てみな。
わからんと思うがなw
忘れたころにまた頂戴するんでその時はよろしくね。警察に行っても一向にかまわんが無駄だから。
怒りは身を滅ぼすから忘れることだよ。どうせ何もできないんだからな。

読み終わった奴は席から腰を浮かせて自習室じゅうを見渡してた。どいつもこいつも犯人に見えただろうな。
俺は涼しい顔で参考書をめくりながら腹の中で大笑いしていた。ニヤツキが顔に出そうで少し汗をかいたよ。
笑いをガマンするってのがこんなに大変とは知らなかった。
奴は俺のラブレターを手に取ったまま自習室を出て行った。おおかた職員にでも相談しにいくつもりなんだろう。
無駄だよ。そんなことしたって。基本こういうのは現行犯じゃなきゃ捕まえられない。
監視カメラにでも犯行の様子が残ってればヤバいがそんなことは最初からチェック済みだからな。

どうだ?こんな風に金をかっぱらわれた奴いるか?
犯人に文句言える機会はそうそうないぞ。
文句でも聞きたいことでもなんでも言ってみな。
答えられる範囲で君たちの気になることをアンサーしてあげるよ。