中学の時、文化祭の練習で遅くなり
男子が女子を家まで送るように先生命令が下った。
俺は長年片思いしていた女の子を送る事になった。
緊張して何も話せずに歩いていたら、彼女が立ち止まって
「クチナシが咲いているね」と言った。
当時は「クチナシ」が何のことか分からずに、キョドってしまった。
彼女は、当たりを見回して「ほら、そこの白い花。私この花が一番好き」と笑った。
彼女の笑顔と「好き」という言葉に頭が真っ白になり、ただもっと笑顔が見たくて
クチナシの枝を少し折って、彼女に差し出した。
彼女が驚いて困った顔になったのを見て、枝を折ったことを猛烈に後悔したけど
彼女は受け取って「有り難う。でも駄目だよ」と苦笑してくれた。

10数年後。彼女と自分と子供の家を建てたとき、庭にクチナシを植えた。
初めて咲いた花を見て、彼女が「もう、折らないでね」と笑った。
覚えていてくれたんだ、と嬉しくて泣きそうになった。

それから10年。子供は中学生になった。男の子だけど彼女に良く似ている。
彼女の遺影に折ったクチナシをあげたら、写真の中で「折っちゃ駄目って言ったでしょ」と苦笑してくれた気がした。