草津白根山の“想定外”噴火で露呈 「活火山の未知のリスク」研究者が警鐘〈AERA〉 1/31(水)
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180130-00000025-sasahi-soci

またもや起きた「想定外」の災害。1月23日に発生した群馬・長野県境の草津白根山の 噴火は訓練中の自衛官の命を奪い、スキー客らを恐怖に陥れた。
どう備えればいいのか。

「まさか草津で……。全くノーマークでした」

草津白根山噴火の衝撃を語るのは、東京都武蔵野市在住で登山歴50年の山岳ガイド「風の谷」主宰者、山田哲哉さん(63)だ。

噴石が降り注いだ草津国際スキー場(群馬県草津町)は、小学生の子どもを連れて何度も訪れた。遊歩道の整備が行き届き、夏場は軽装で山頂に立てる。

一帯はオールシーズン満喫できる行楽地だ。山田さんは言う。

「温泉地ですから、ここは活火山なんだという感覚はありましたが、噴火に注意する意識は皆無でした」

「危険な活火山」は日本に今、どれくらいあるのか。国内111の活火山のうち、気象庁が「火山防災のために監視・観測体制の充実等の必要がある火山」として
2009年の火山噴火予知連絡会の報告を踏まえ選定した火山は47。さらに、

十和田、八甲田山、弥陀ケ原の3山を追加した50火山が、24時間体制で観測・監視する「常時観測火山」だ。草津白根山も含まれている。

しかし、今回の噴火は「想定外」だった。なぜ、こんなことが起きるのか。

草津白根山は「白根山」や「本白根山」など火山活動でできた一帯の山々の総称だ。今回の火口は、水蒸気噴火の頻度が高く、従来警戒を強めていた
「湯釜」ではなく、2キロ南の「鏡池」付近とされる。このため、気象庁が「3千年間噴火していない」と見ている本白根山側の警戒監視は、実質的にカバーしきれて
いなかったのが実情だ。

本白根山の噴火の年代をめぐっては別の見方もある。

富山大学の石崎泰男准教授(火山地質学)らは過去の噴出物の分析や地層の放射性炭素年代測定をし、最新の噴火は1500〜1200年前と推定。

それ以降も、小規模噴火が繰り返された可能性を指摘する。石崎准教授は言う。

「気象庁が重点観測している火山は、過去100年程度の火山活動などを目安に選定しています。確かに本白根山は、非常に静穏な状況を続けてきました。
そういった火山も常時観測の対象に加えるのは予算面からも困難です。ただ、小規模噴火も含む噴火履歴調査を徹底し、より詳細な噴火年代や規模、
周期を公表し、関係機関に活用してもらうのは有意義だと思います」

11年の東日本大震災以降、日本列島が火山の活動期に入ったと考える研究者は少なくない。

国立研究開発法人防災科学技術研究所の棚田俊収(としかず)・火山防災研究部門長も、活火山の未知のリスクに警鐘を鳴らす。

「例えば富士山も、山頂部から噴火するとは限りません」

富士山は過去に1合目から山頂の間でも溶岩流出が確認されている。富士山のハザードマップは、山頂を含むかなり広範囲な場所で噴火した場合を
想定して作成されているが、完璧とは断言できない、と棚田氏は言う。

「あくまで一定の『想定』を基にハザードマップは作成している以上、『想定外』は起こり得るのが前提です」

地震の発生要因に活断層が注目されるようになり調査が進んだのは、阪神・淡路大震災以降だ。火山も地質学的な調査や観測機材をもっと投入し、
より精度の高い火山活動の実態把握や履歴調査を国家レベルで行うべきだ、と棚田氏は唱える。

噴火から身を守るにはどうすればいいのか。噴石の防備に有効なのはヘルメットの着用だろう。建物の中や大きな岩の陰に身を伏せることも重要だ。

警戒情報を敏感にキャッチすべきなのは言うまでもない。しかし、と前出の山田さんは言う。

「今回のように全く予兆が観測されていない場合はお手上げでしょう」

(編集部・渡辺豪)
※AERA 2018年2月5日号