Welcome Page 多段階発癌説で見た福島県民健康調査と微小癌の経過観察
http://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/labo/www/CRT/WN18.html

福島県民健康調査ですが私はこれ以上被害が拡大しないうちに縮小すべきだと考えています。
しかし、多段階発癌説で癌を理解している大多数の研究者にはこの理屈は理解できないでしょう。
癌を早期発見・早期治療して何が悪いんだ、と。癌という病気の基本概念が大きく転換しようという時期に
原発事故が起きてしまったのは非常にタイミングが悪かったと言わざるを得ません。

芽細胞発癌説で発生が予測される過剰診断の問題は2つあります。

第1に後でないとわからないことです。過剰診断の判定はあくまで統計学的な解析によるものであり、
手術でとってしまう以上、個々の症例で誰が過剰診断で誰が過剰診断でないかは判定できません。
したがって、過剰診断があることが明確であってもそれを根拠に医療機関を訴えたりはできないのです。
すなわち、福島の子供は一方的に被害を被ることになります。

第2に、これが非常に罪作りなのですが、見つかった以上は手術する方が楽だし体裁が良い。
見つかったものを経過観察をして結果が悪かったら非難されますが、手術で取ってしまえば全員ハッピーなのです。
甲状腺癌を見つけた医師は「早くみつかって良かったですね。」と言える。 
手術した外科医は「早く取れて良かったですね。」と言える。
そして家族も「早く診断して治療してもらって良かった。」となります。
こうして誰もブレーキをかけないままに手術例が積み上がっていきます。
近い将来福島を訪れると、あっちにもこっちにも首に傷のある若者がいる、という事態になりかねません。

我々のところでは最近若年者で超音波で偶然見つかった甲状腺癌の症例が紹介されるようになり、
これらについては可能な限り経過観察をするように方針を変えています。しかし、これはものすごく大変です。
患者も繰り返し経過観察に来なければなりませんし、なによりも経過観察の結果悪い結果が起きるのではないか、
と考えると担当医はおちおち安心できません。できることなら見つけてくれるなよ、と、ぐちの一つも言いたくなります。