団地を吹き抜ける師走の風に背中を丸めながら、車椅子を押す。千葉市美浜区の海浜ニュータウンで暮らす
内山義彦さん(78)の朝の日課だ。

 鉄鋼関連会社に勤めていた内山さんは1974年、2DKの賃貸に入居した。4700戸の大団地だった。
同世代が背広姿で一斉に都心へ出勤し、子供2人が通う幼稚園からは笑い声が響いた。「この街は開ける」。
希望が膨らんだ。

 しかし、間もなく妻(73)が体調を崩す。内山さんは働きながら、入院や通院を支えた。仕事を終えた10年ほど
前から家事も担う。

 入居から40年あまり。救急車をよく見かけるようになった。子供の声は減り、小学校は統合された。ここ数年は年末の
餅つきにも足が向かなくなった。地域とのつながりも細くなっていく。「自分が元気なうちはいいが」。
不安がよぎる。

 内山さんの団地から2キロ離れた海近くの分譲団地に暮らす野村耕一さん(77)は1年前、知人の死に接した。
 別棟の1階にいた70代の男性。一緒に管理組合の理事を務めた。長崎県出身で独り身だった男性に野村さんの
妻がおせち料理を届けるのが恒例だった。

 昨年末。ノックに応答がなく料理をベランダに置いた。翌日もそのまま。野村さんがベランダから入ると男性は廊下に
倒れていた。

 野村さんにとって、海浜ニュータウンは憧れのマイホームだった。画材を製造販売する都心の会社までの通勤ラッシュ
は激しかったが、苦にはならなかった。各地から来た住民とも団地の行事で交流を深めた。孤独死した男性もその一人。
「誰にでも起こり得る」。そう実感する。

 美浜区の稲毛と検見川両ニュータウンを合わせて「海浜ニュータウン」と総称される地域は60年代後半、東京湾岸を
埋め立てて造成が始まった。2015年の人口は約7万8000人。地元の人たちがニュータウンと呼ぶ地域を含めると10万人を
超える。東京駅まで35分と立地も良い。だが人口は10年前より1割減少し、高齢化率は30%前後に達した。自治会などは
1人暮らしを対象とした交流や見守りに力を入れるが、遠慮からか拒む人も多い。