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仕えた主とともにのし上がっていったチェイニーの様子は、まさにこれだ。ニクソン政権で、下院議員からホワイト
ハウス入りしたドナルド・ラムズフェルドの下で、たまたまインターンをしたことが、旗本/従士チェイニーの出発
点だった。他でもない政治家としての彼の本質が形成されたのは、はるか昔の、70年代のニクソン/フォード
時代のホワイトハウスだったのだ。

一度知ってしまった権力という「甘い蜜」を忘れ去ることなどできない。ラムズフェルド&チェイニーの師弟コンビは、
ウォーターゲート事件でリチャード・ニクソンが辞任した後、副大統領から大統領に昇格したジェラルド・フォード
のホワイトハウスを手玉に取ることを画策する

保守革命と、政治的混乱
この「保守の台頭」の描写は、コンパクトながら極めてよくできていて、今でも共和党議員の政策の形成に甚大
な影響力をもつヘリテージ財団などの保守系シンクタンクが誕生する描写や、トリクルダウン理論によって富裕
者減税を実現させた1986年の税制改正──これはアメリカ議会史上の快挙としてしばしば政治学の教科
書で取り上げられるほどのもの──の実施などが扱われる。ちなみに、このときの税制改正が、今日の「1%と
99%の分裂」を生んだとされ、2019年現在、民主党が再び富裕者への所得税率の上昇を政策として真剣
に考えるようになった原点である。このあたりに、監督のマッケイ見るところの「現代アメリカ社会に政治的混乱
をもたらした保守革命」という本作の主題が見え隠れする。

もっとも、現在のアメリカ政治の「二極化」ぶりへとつながるという点では、チェイニーが下院議員であった1987年
になされた「フェアネスドクトリンの撤廃」が大きい。これにより、報道の「公正さ(フェアネス)」の縛りがなくなり、
いわゆる「意見報道」がアメリカのメディア報道で解禁された。この決定は、後に保守派の偏向報道で知られ
るFox Newsを誕生させ、その台頭は、もともとは公正報道を目指して設立されたはずのMSNBCやCNNをリ
ベラルに偏向したニュースチャンネルに変えていくことを促した。