2019.04.03 WED 17:00
現代アメリカを生み出した稀代の〈アングラー=釣り師〉ディック・チェイニー:映画『バイス』池田純一レヴュー
https://wired.jp/2019/04/03/vice-review-ikeda/
映画全体を象徴する、「心臓」のイメージ
「クリスチャン、君のおかげか、あるいはディック・チェイニーのおかげで、僕は一命を取り留めることができたよ」
本作の監督&脚本家であるアダム・マッケイは、2018年1月、心臓発作で病院に担ぎ込まれた。

妻・リンの野心と、チェイニーの行動原理
ホワイトハウスは裏口がありすぎ!?
端的に、猟官制のヤバさを痛感させられた。政府高官を大統領の好きなように任命できる──といっても
上院の承認は必要だが──猟官制という、前政権の高官たちを総入れ替えできる制度に伴う、いかんと
もしがたい破廉恥さとでもいえばよいか。

アメリカ政府という「パワー=(権)力」を掌握するのに、アメリカン・デモクラシーの建前である「民主的選挙」
を全く経ることなしに、つまり一般の人びとに自ら語りかけることなどなく、ただ権力に接近し、あわよくば自ら
の手中にその力を収めるための近道、というか「裏口」が、大統領候補者という神輿を担いで政権入りする
ルートである。その狡猾さがよくわかる物語だ。

以前から、どうしてアメリカでは30代や40代の、日本でなら中間管理職を務めるような経験ある人物が、
そのキャリアを放り出して選挙キャンペーンのスタッフとして参画するのか、疑問だったのだが、これならよくわかる。
見事勝利を収めれば、スタッフには功労賞として官職が与えられるからだ。いわば中世における王位簒奪の戦
争であって、主君が王になれば、褒美に爵位と城を貰い受けるようなものだ。だから、選挙スタッフとは現代の
騎士なのだ。2010年代になって大統領選の季節になるたびにドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』が引き合いに
出されるのも納得できる。まさに七王国の間での政争なのだ。