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 だとすると、移民政策は貿易政策と似た政治色を帯びることになる。つまり移民に仕事を奪われそうな人は受け入れに反対し、
移民と補完的な仕事をする人は賛成するという図式だ。そして全体最適の議論は脇に追いやられ、結論が先送りされるか
ポピュリズム(大衆迎合)的風潮が生起するかのいずれかになる。
      ◇   ◇
 移民に関する議論にこうした制約があるにせよ、論点を整理しておくことは重要だ。以下では、日本が直面する3つの課題との
関連から移民問題を考えたい(表参照)。
 第1の課題は労働集約型サービスでの人手不足だ。その解決手段として外国人労働力を活用すべきだという意見がある。実際、
政府はインドネシア、フィリピン、ベトナムと協定を結び、08年度から段階的に看護師や介護福祉士の候補者を受け入れてきた。
また17年には、国家戦略特区でフィリピン人による家事代行サービスも始まった。 …(略)…
 だがこうした外国人頼みの解決策には注意が必要だ。なぜなら、その原因が低賃金や長時間労働といった待遇面にあるとも
考えられるからだ。すなわち特定業種での人手不足は本来、賃金上昇を経由した生産性向上により解決されていくはずだ。
低い待遇をいとわない外国人に安易に頼ることは、これらの業種の生産性を低水準に押しとどめることになり、根本的な問題の
解決にはつながらないだろう。
 さらに協定を結んだ3国でも近年、出生率が低下傾向にあり、いつまでも日本人の就きたがらない仕事に従事してくれるとは
限らない。また隣国中国の所得上昇と急激な出生率の低下を考えると、今後同国で労働集約型サービスにおける大規模な
人手不足が発生する可能性もある。
 第2の課題は、労働力人口が減るなか年金や医療保険システムをどう維持するかだ。この課題の解決には日本全体での生産性
向上が不可欠であり、そのために導入されたのが、潜在成長力アップに寄与する高度人材を海外から受け入れる選択的移民政策
(いわゆるポイント制)である。
 …(略)…
《続く》