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だが、トランプ氏の選挙運動に陰りが見えていることによって、米政界では、トランプ氏のようなポピュリスト
的な訴求をすれば、必ずやオバマ大統領の選出に繋がった「新しい米国」連合(独身女性、アフリカ系、
ラテン系、アジア系の米国人、勤労女性、若年層、同性愛者)の反発を招いてしまうという認識が強まっている。

政界関係者がトランプ流ポピュリズムを拒絶すると、往々にしてそれは、広く流布している米国の白人
労働者階級に関する情緒的なストーリーに収まってしまう。識者の多くは、こうした有権者を、過去に
自分たちが得ていた不当な優位にしがみつく抵抗勢力として一括りにしてしまう。進歩的な変化に抵
抗し、職場だけでなく私生活においても彼らに挑戦する女性やマイノリティを抑えつける力を維持しよ
うとしているという役柄が押し付けられる。

従来、白人貧困層は、白人男性が職場や私生活における特権を与えられて当然と考えていた時代の最
後の生き残りであり、トランプ氏はその最後のあがきであるとみなされてきた。白人労働者階級の人々は、
文化的な逸脱者であり、道徳的な根拠が揺らぐなかで彼らの労働倫理も低下してきたとみなされることが多い。

白人エリート層の多くは、優遇された昇進システムのなかで成功を収めてきた人々の子孫だが、恐らく過去
の自分自身と距離を置くために、今では白人貧困層を非難するようになっている。

一方、白人労働者階級の側では、過去を懐かしむことしかできない。20世紀半ばは、政治家がこの層の票を集
めようとした最後の時期である。安定した高給の正規雇用があり、家族が一体であったのも、この時期が最後だった。

その後、白人労働者階級に属する人々は、非常に不安定な状態へと着実に滑り落ちていった。大卒の学歴
を持たない米国民が安定した高給の正規雇用を得ることはどんどん難しくなっていった。雇用とともに、白人労
働者階級の生活を規定していたそれ以外の関係性もますます不安定になっていった。離婚率は急上昇し、
麻薬の使用が広まり、非嫡出子が増加した。