『ニューズウィーク日本版』2015年9月29日号
CHINA−毛語録から新華僑まで、中国が張り巡らす謀略の糸
楊海英・静岡大教授(本誌コラムニスト)
ttp://www.newsweekjapan.jp/magazine/156879.php
 世界を中国の天下につくり直すために当局は華僑の動員に全力投球する。66年9月、中国共産党中央華僑事務委員会
を主幹していた廖承志(リャオ・チョンチー)は次のように演説して各国メディアを驚愕させた。「世界にはわが国の同胞たち、
すなわち華僑は2000万人いる。ものすごい数だ。彼らを動員し、そのうちの100分の1がゲリラになってくれれば、われわれは
20万人の兵力を擁することになる」
 廖は日本に生まれ育ち、早稲田大学で学んだ秀才。「現在、日本の山口県の人民たちも立ち上がって造反している。
日本が動乱に陥れば、われわれにとってはチャンスだ」と、廖は扇動した。「山口県の人民」とは毛沢東主義を掲げた
日本共産党山口県委員会(左派)を指す。当時、文革に批判的な日本共産党から除名される対立が起きた。「千葉県
三里塚の農民と佐世保の人民、山口県岩国の人民の反帝国主義闘争を支援しよう」と、69年に中国共産党は何回も声明を
出し、空港・基地問題で揺れる日本の分断を図った。「華僑は日本人民を支援する最前線に立っている」とも持ち上げた。
 今日も、中国の外交官は何より駐在国に住む華僑の経済力と政治力を利用しようと謀略活動を続ける。実際、華僑の存在
が大きい東南アジア各国は常に華僑と北京との間で張り巡らされた糸に踊らされている。