立花隆「解読『地獄の黙示録』」を読んでみた。
この人のノッペラボウの文体はどうも好きになれないし、内容も首を傾げさせられる箇所がいくつかある。

例えば、カーツの王国でカメラマンがタバコをねだったのは、コンラッドの原作と同じと書いてあるが、原作ではカメラマンに相当するロシア人はタバコをねだったりしていない。主人公から勧められたので、喫って喜んでいるだけだ。
それにエリオットの「アルフレッド・プルフロックの恋歌」は愛の告白を迷い続ける詩と紹介しているが、とんでもない誤解だ。「生の不毛と倦怠を、都会的なシニカルなタッチでえがいた」(田村隆一)、理想や希望を喪失した現代人の詩で、愛など疲れるなとしか感じていないのである。

それはさておき、立花によると「地獄〜」はエリオットの「荒地」と同様にシンボル操作の手法により、ベトナム戦争を批判し、戦争のない世界のヴィジョンを示した映画だという。
確かに、コンラッド、エリオット、聖杯伝説、金枝篇、ドアーズと、様々な仕掛けが出てきて、それを読み解く楽しさはある。
しかし、その中心となるコンラッドの原作と現代は時代がかけ離れており、>>89で書いたようにもはや訴求力がない。意味は分かるが、効果がないのである。
結局、本作は壮大な失敗作というのが妥当な評価だろう。