押井 各年から1本ずつ選んで50年50本リストを作る。かねてから時代と映画を絡めて語ることには
興味があった。だから今回の話に乗ったのだけど、いざ映画リストを見始めたら「意外に難しいぞ、
これ」と頭をかかえた。「こんなの3分で出来るじゃん」と思っていたのだけど、とんでもない。

──と言いますと?

押井 初っ端の1968年がけっこう困った。いきなり悩んだ。普通だったら『2001年宇宙の旅』が
ダントツに決まっている。自分が作っている映画の傾向からして。たしかに『2001年宇宙の旅』
という映画は自分にとってとても重要な映画だったんだよ。もしかしたらその後の一生を、
当時は決めたと思っていたわけ。「こんなすげえ映画見たことない」と思ったもん。
でも「当時の自分」と「いまの自分」はちがうわけだ。もちろん映画史的には
スタンリー・キューブリックの『2001年宇宙の旅』が最重要だけど、いまの自分を基準
にして1968年の映画を選ぶのなら、
セルジオ・レオーネの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』をセレクトしたい。
公開当時は『ウエスタン』という邦題だったのだけど。