過疎ってるので
1973年 死ぬのは奴らだ 原作:Live and Let die 1954

── 秘密諜報機関に働いている人間は生涯に何度かは恐ろしく豪華な暮らしをする機会に恵まれる。
大金持ちの役回りを演じなければならない仕事もあるし、危険や死の影の思い出を払拭するためだけに、何不自由ない暮らしに安堵を求めることもある。
時には、今回の事件のように他国の秘密諜報機関の縄張りに賓客として招かれることもあるのである。
英国航空のボーイング377がアイドルワイルド(現在のジョンFケネディ)国際空港ターミナルに到着してからはジェームズ・ボンドは王侯貴族級の扱いを受けることになった。
他の乗客たちと一緒に飛行機から下りた時は、彼もアメリカ合衆国移民局や保健局、税関などの悪評高い扱いびりを受けるのを覚悟していた。
少なくとも、据えた汗の匂いや犯罪と国境特有の不安のような匂いのする、暖房の効き過ぎたくすんだグリーンの部屋で待たされなければならないと思っていた。
不安というのは立入禁止と書かれた扉に対する不安で、
そこには目つきの鋭い人間や書類の山、ワシントンや麻薬取締局、防衛機関、大蔵省、FBI連邦捜査局などと連絡するテレプリンターが隠されているからである───。