「グレゴリー・ペック、日本に行く」


90年代終わり頃のこと。

グレゴリー・ペックはそのとき、日本でのトークライブを楽しみにしていたという。
聡明と言われる日本の映画ファンからの鋭い質問が楽しみだ。
とくに自信作であるアティカス・フィンチのことはおくらでも語れる。
いつもアメリカで質問され慣れているから。
きっと今日の質問も『アラバマ物語』が当然中心になるだろう。
アメリカでもいつもそうだから。


そして、始まったトークイベント。

「ペックさん、『ローマの休日』のとき、はじめてオードリーに会ったときの印象はどうでしたか」
「『ローマの休日』のロケ地の中でペックさんが一番すきな場所はどこですか」
・・・

次々と出てくる質問に丁寧に答えながらも、何だか面妖そうなペック。

「『ローマの休日』のときのオードリー・ヘップバーンのエピソードがあったら教えてください」
「ペックさんご自身が『ローマの休日』の中で最も気に入っているシーンは何でしょう」
・・・・・・

トークライブは盛況で成功に終わったのに、なぜペックが憮然とした表情で会場を後にしたのか、
主催者側はペックの不機嫌の理由が全くわからなかったという。・・・


おしまい