「彼(ルビッチ)の考え方は常に遠回しに表現するということだ。彼は人の頭を叩いて『ここに2と2がある。2と2を足せば4だ。そして3と1を足せば4だ』と説明するタイプの監督ではない。
彼は単に『ここに2と2がある』とだけ言い、あとは観客に足し算をさせる。観客が共同脚本家となる。そこに笑いが生まれる。
「大学に講義に行った時に、こんなことを言った。『こういうシチュエーションがある:王様と女王がいる。王様には副官がいて、彼は女王とできている。そのことに王様が気付く。さあ、家に帰ってこのシーンを脚本にしてきてごらん』
この課題を1000人の聡明な脚本家(や脚本家志望者)に出すと、20ページの脚本を書いてくる者もいれば、
簡単なセリフのシーンを書いてくる者もいる。でもルビッチが(「メリイ・ウイドウ」(1934)で)やったような回答を思い付く者は誰一人としていない。
「これがルビッチの答だ。王様と女王はベッドルームにいる。王様は服を着ながら、女王にキスしている。カメラは部屋の外に出る。
そこに見張りの少尉(モーリス・シェヴァリエ)が剣を持って立っている。王様はベッドルームから出てきて、シェヴァリエに笑いかけると、階段を降りて行く。
そこで、シェヴァリエはもう安全だと考え、女王のいるベッドルームへと飛び込む。ドアが閉まる。カメラはベッドルームには入らない。