まじめな話、「ウォルトディズニーの約束」はよくできた佳作です。なぜこの作品がアカデミーの作品賞に
ノミネートもされなかったのか不思議な気がするほどです。かといって他のノミネート作品を見ているのでは
ないので、比較してどうこうはいえないのですが、映画の仕上がりやレベルとしては作品賞にノミネートされ
てしかるべき作品だと思いました。ただし大賞を受賞するほどの傑作であるとまでいえるのか、というとやや
疑問ではあります。思えば元のメリーポピンズさえ作品賞を逃しているのですから、この作品で作品賞を受賞
してしまうと、メリーポピンズのファンとしてはちょっと複雑な気になるかもしれません。
だいたい1964年のアカデミー賞でマイフェアレディーと互いに競いあったレースでじゅりーアンドリュースの主演
女優賞以外では主要な部門をマイフェアレディーに取られてしまったのも、今更ながら悔しい気がします。
映画の面白さという点では絶対にメリーポピンズの方に軍パイがあげられると、今の時点で比較してもそう
思われるので、メリーポピンズが1964年の作品賞を受賞すべきだったと思います。

ただ「ウォルトディズニーの約束」をみて思ったことですが、はたして映画メリーポピンズの完成試写の際に
PLトラバースが映画自体をどう評価したのかということが、「・・・約束」を見ただけでは分かりません。
最後はトラバースが試写をみながら感極まって涙を流すのですが、その涙にどういう意味があったのかという
ことはあの映画では分かりません。これは想像ですが、トラバースは必ずしも映画の仕上がりに満足して涙を
流したのではなかったのではないのかな。そう受け取る方がかえってあの映画の深みも増します。
トラバースにとっては映画はあくまでも映画であり、それは彼女自身の「メアリーポピンズ」とは別物だったの
ではないでしょうか?しかし映画としてはあれでよかったのではないかと私は思います。

ただトラバースがもし映画の制作現場にあれほど深くかかわっていなければ、映画「メリーポピンズ」は
甘ったるいだけの子供向けディズニー映画になっていたかもしれません。そう考えると、トラバースが
必死で頑張ってくれたからこそ、傑作映画「メリーポピンズ」が生まれたのではないでしょうか?