本拠地、有明コロシアムで迎えたアニラ
先発志田が大量失点、打線も勢いを見せず惨敗だった
スタジアムに響くファンのため息、どこからか聞こえる「やっぱ乃木坂だな」の声
無言で帰り始めるメンバーの中、昨年のセンター平手は独り楽屋で泣いていた。
ロッキンで手にした栄冠、喜び、感動、そして何より信頼できるメンバー…
それを今の欅坂で得ることは殆ど不可能と言ってよかった
「どうすりゃいいんだ・・・」平手は悔し涙を流し続けた
どれくらい経ったろうか、平手ははっと目覚めた
どうやら泣き疲れて眠ってしまったようだ、冷たい楽屋の椅子感覚が現実に引き戻した
「やれやれ、帰ってトレーニングをしなくちゃな」平手は苦笑しながら呟いた
立ち上がって伸びをした時、平手はふと気付いた

「あれ・・・？お客さんがいる・・・？」
舞台袖から飛び出した平手が目にしたのは、立見席まで埋めつくさんばかりのヲタクだった
千切れそうなほどにペンライトが振られ、地鳴りのように欅坂のovertureが響いていた
どういうことか分からずに呆然とする平手の背中に、聞き覚えのある声が聞こえてきた
「てち、リハだ、早く行くぞ」声の方に振り返った平手目を疑った
「す・・・鈴本さん？」 　「なんだカワウソ、居眠りでもしてたのか？」
「い・・・今泉？」 　「なんだ平手、かってに今泉さんを卒業させやがって」
「守屋さん・・・」 　平手は半分パニックになりながらスコアボードを見上げた
１番：小池　２番：土生 ３番：鈴本 ４番：不愉快　５番：菅井　６番：平手　７番：小林　８番：上村　９番：尾関
暫時、唖然としていた平手だったが、全てを理解した時、もはや彼女の心には雲ひとつ無かった
「勝てる・・・勝てるんだ！」
織田からマイクを受け取り、ステージへ全力疾走する平手、その目に光る涙は悔しさとは無縁のものだった・・・

翌日、ベンチで冷たくなっている内川が発見され、吉村と村田は病院内で静かに息を引き取った