エル・エステ(その7)
天井近くにある小さな擦りガラスの窓からわずかな日だけが差し込むだけで、部屋は薄暗く、奥に行くとさらに暗くなっていました。
この頃の私は片時も父のことを考えないということはありませんでしたが、
慣れない着物の違和感と同い歳の優佳が横にいるという嬉しさで父のことは忘れていました。
御祈祷が終わったときにその不在に気づきました。
「あれ?私の大切な日なのになぜパパはいないの?」と傍にいた母に抗議すると、「いるわよ」と母は答えました。
部屋の奥を見ると、暗闇の中に黒い人影が浮かび上がりました。
部屋の奥にまでわずかに届いている淡い光がかろうじて人影の上のほうにだけ当たっていました。
目を凝らすと、それは父でした。(続く)