【小説】スナック眞緒物語【けやき坂応援】
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宮田愛萌さんのブログや「ひらがな推し」やでネタにされている架空空間「スナック眞緒」を舞台とした小説のスレです。
なお、「ひらがな推し」や宮田ブログでの「スナック真緒」での井口真緒さんと宮田愛萌さんはひらがなメンバーとは別人格という設定ですが、
ここではひらがなメンバーであるのかないのかというのは曖昧にします。
タイトルと冒頭と末尾の文は、宮田愛萌さんがブログで書いているのをテンプレとして使いました。
原案や参照にしたものがある場合には、その小説が完了したとき必ず明記します。 エル・エステ(その1)
「女の子だ」と母のお腹をさすりながら父は予言しました。
「芽が出て実が成るという願いを込めて、芽実というのはどうでしょうか?」と母が言うと、
「柿崎芽実か、いい名前だ」と父は仕合せそうに応えました。
それが私の最も古い記憶ですが、母胎の中にいる私がその様子を見られるわけがないので、もちろん刷り込みによるものでしょう。
父はフラワーアーティストでした。
私の生家には屋根裏部屋があり、父は誰も入れず、何か秘密めいたことをしていました。
その疑問を母に尋ねると、誰かを入れると霊力が逃げていき、仕事がはかどらなくなるからだと答えました。
母はいつも一緒に家の中にいて読み書きを教えてくれましたが、不思議と母の記憶はあまりありません。
父の素性は謎のところがあり、過去も知りませんでした。
でも、父がそばにいれば、他の何も気になることはありませんでした。(続く) エル・エステ(その2)
長野県の小さな盆地に私の生家はありました。
四方の山の稜線が世界の限界を知らしめて、小学校の低学年くらいまではその外に世界があることを全く疑わなかったのです。
大きなイヌワシになって空を飛ぶという夢をよく見ました。
山の斜面にぶつかって上昇する風を受けて、羽ばたくことなくぐんぐん舞いあがってあっという間に空高くに昇る。
段々畑は柔らかい緑の絨毯を敷いた階段のようでした。
太陽の光を浴びて輝く池はコンパクトの鑑のようでした。
豆粒ほどになった私の家が眼下に見え、ああいつも私はあそこに住んでいるんだなあと思いました。
イヌワシになれるという力を得た私は喜びに溢れ、どこでも行けるし何でも見渡せると思ったのです。
でも、盆地を囲む山の稜線の外には世界はなく、その外に行こうということを考えたことはありませんでした。(続く) エル・エステ(その3)
でも、閉じられた世界に住んでいたことで無意識のうちに学べたこともいろいろあります。
山の地形が目印となって日の入りや日の出の位置をはっきりと頭に刻み込むことができ、その位置が季節で違うのを学習しました。
日の出入りの位置が夏至では北にずれ、春分や秋分では真東や真西となり、冬至では南にずれる。
太陽の一日の軌道は半円のリング状となり、その半円リングは地面と垂直ではなく南側に倒れているというのも自然と覚えました。
だから、日の出入りの位置との関係で夏は日が長く冬は日が短くなるということは理解していました。
私の家の庭には一本だけ大きな木があって、年間を通してその木の影を観察したものです。
影が夏は短く冬は長くなるということから、太陽は夏が高く冬が低くなるというのも無意識に体得していました。
また、その木の樹皮に触れ、その下の脈動を感じることで、季節の移り変わりを予感しました。(続く) >>37
期待していたから残念だけど気長に待ちます
新作期待してます いずれは書くことがなくなって、このスレはフェードアウトするでしょうが。
先細りを避けて、少しでも長く続けようとするために目先を変えるという選択をしました。
それと、あまり期待しないでくださいね、苦し紛れにかなり杜撰なものも書くことになると思うので。 エル・エステ(その4)
小学校に入学してすぐ後のときのことです。
部屋の中で1枚の絵葉書を私は見つけました。
それは新宿駅南側のタイムズスクエアビルの写真でした。
まだ冬が残り、外は少し肌寒く空は澄み渡っていました。
庭で洗濯物を干している母の元に駆け寄り、「ねえ、これってお家なの?」と尋ねました。
「それはビルというのよ」と母は答えました。
「人が住んでるの?」
「住んでいるものもあるし、その中でお仕事をしていることもあるの」
「なんでこんなに高いの?」
「東京にはお山がないので、その代わりかしら」
「東京ってどこにあるの?」
「ほら、あっち」と東にある山のほうを母は指さししました。
「東京ってお山がないんだ、変なところね」
「パパが若い時に住んでいたのよ」(続く) エル・エステ(その5)
それまでは盆地の中が全世界で、それより外に世界は存在していませんでした。
母から教えてもらったときに、初めてその外にも世界が出現したのです。
私は東京への興味がかき立てられ、父の過去のイメージがそこに重なりました。
その夜、若い頃の父の写真の載っているアルバムを寝床に持っていき、飽きるほど見ながら眠りにつきました。
イヌワシになって飛びまわる夢をまた見ました。
イヌワシの私が目をやると、東側の山の外は虚無ではなかったのです。
吸い込まれるように東の山の上を突き抜けました。
実際の距離を無視し、そのすぐ裏側が東京でした。
知らない場所に行くという恐怖は全くなく、未知の世界への好奇心で一杯でした。
山よりも高くそびえ立つタイムズスクエアビルの周りをグルグル飛び回り、窓から室内を眺めました。
若い頃の父がいる姿を私は見つけました。(続く) エル・エステ(その6)
私が小学一年生のときに、東京から二人のお客さんが来ました。
長野ではもう寒い11月のことでした。
母の同級生とその娘だったのです。
中学の途中で母の同級生は家族で転勤して、それ以来ずっと東京に住んでいたそうです。
娘の七五三の帯解きの儀式を自分の生まれ故郷でやりたいとのことでした。
娘の名前は優佳といいまして、同い歳だったのですぐに打ち解けました。
私と優佳は髪を結いあげてもらい、着物と帯を身につけ一人前の大人っぽい格好で神社にお参りに行きました。
着慣れない着物で少し窮屈でしたが、優佳とのおしゃべりは楽しくあっという間に時間は過ぎました。
最後の仕上げに神社の奥まった部屋で私たちは御祈祷をしてもらいました。(続く) エル・エステ(その7)
天井近くにある小さな擦りガラスの窓からわずかな日だけが差し込むだけで、部屋は薄暗く、奥に行くとさらに暗くなっていました。
この頃の私は片時も父のことを考えないということはありませんでしたが、
慣れない着物の違和感と同い歳の優佳が横にいるという嬉しさで父のことは忘れていました。
御祈祷が終わったときにその不在に気づきました。
「あれ?私の大切な日なのになぜパパはいないの?」と傍にいた母に抗議すると、「いるわよ」と母は答えました。
部屋の奥を見ると、暗闇の中に黒い人影が浮かび上がりました。
部屋の奥にまでわずかに届いている淡い光がかろうじて人影の上のほうにだけ当たっていました。
目を凝らすと、それは父でした。(続く) >>46
ひらがなではめみたん好きだから興味持って読んでましたが
気づいたら東京都さんの文体とジワリジワリと進む物語の方に惹き付けられてます 柿崎は可愛いですよね。
量産型の可愛さではなく、特徴的な顔立ちなのにあれだけ可愛いというのがとてもレア。
ただ、最初期のセンターやっている頃は、そのルックスは認めつつも、そんなに惹かれてはいなかったかな。
センターを外され、骨折して、挫折を知った後で、表情に陰影と奥行きが出てきて、
ぐっと女性らしくなったような気がします。 お褒めの言葉、ありがとうございます。
以前は書き込み欄に直接書いていたのですが、
2019年からは書いたものをワードに保存して、最低一度は推敲しています。
その上で書き込み欄にコピペするということをやっています。 エル・エステ(その8)
父が存在することを私が欲したとき、暗闇の中から父が現れたのはただの偶然でしたが、世界の秘密を知ったような気になりました。
あの頃はもちろん今でもうまく言語化できないと思うのですが・・・。
私が意識を向けた人や物で私の世界は構成されています。
でも、それ以外の人や物もとうぜん存在しています。
私の生まれた盆地と同じようなもので、私の世界の果てにも稜線があります。
太陽が山の稜線から出てくるように、私が意識したときにだけ人や物は私の世界の稜線から飛び出してくるかのようです。
逆に言えば、意識しなければ、稜線から飛び出してくることはないということです。
わりと早くから一人部屋で私は寝ていたのですが、寝静まったときには、その部屋は外から隔絶されていて、
夜中に目を覚まし、何かのはずみで意図せずドアを開けたときには、外には何もないのではないかという変な妄想もよくしました。
そういうとき、ペンライトを取って、自分の体や壁に光を当てて気を紛らわせました。(続く) エル・エステ(その9)
他にも変なことをよく考えました。
私の世界に一度も飛び出してこず興味関心も抱かせない人や物は私にとっては何なのか?ということです。
それらは存在していないことと同じです。
だから客観的な存在というものが信じられないのです。
私との関連の下に働きかけてくれる人や物だけが確かな真実だと今でも思っています。
ただし、見えるものだけでなく私の想像によっても私の世界はつくられています。
空を眺めていると、天候や時間だけではなく、目には見えない存在を私は感じ取っていました。
昼に照らしてくれるてくれる太陽や夜に美しく輝く星々の規則正しい動きの現前をもって、
宇宙を計画し創造し秩序づけた神様の存在を想像していたのです。
ただし、私にとっての神様は西洋の神様ではなく、長野に古くから伝わる龍神様でした。
また、あの絵葉書を見て日以来、東側の山の裏側には東京を想像していました。
そういう想像物も私の世界の一部だったのです。(続く) エル・エステ(その10)
さて、お参りが終わった後に、家では親戚や近所の方も集まっていて、信州そばやお焼きが並んだ盛大な食事会が行われました。
「コゴミはないの?優佳に食べさせてあげたい」と私が言うと、「あれは春にしか採れないの」と母は答えました。
食事会が終わった後、私の部屋で優佳と一緒に寝ました。
東京のことを優佳に尋ねました。
優佳はとても頭がよく、何でも知っていて、手際よく教えてくれました。
恵比寿ガーデンプレイスや東京タワーやレインボーブリッジの美しいイルミネーションの話が特に印象的でした。
優佳の話を聞いているうちに私の世界の中の東京がより広がりよりデコレーションされていきました。
昼間の七五三の儀式でとても疲れていたのですが、眠りたくはありませんでした。
口で確認したわけではなかったのですが、優佳もそう考えているのが伝わりました。
私は優佳の話に耳を傾けていました。(続く) エル・エステ(その11)
「ここはもう冬だね。なんで冬は寒いんだろうね」という優佳の一言で、私は上半身を起こしました。
一つは冬のほうが日照時間は短いということで、もう一つは冬の太陽のほうが高度は低いためだと得意げに話しました。
「でも、お日様が低いとどうして寒くなるの?」と優佳は尋ねました。
勉強机の上にあったペンライトとペンを取り出し、優佳の掌を上にして、直径5ミリくらいの円をペンでそこに描きました。
ペンライトの光を真上から当ててからちょっとだけ傾けました。
「ほらこれが夏のお日様。まだ光は濃ゆいでしょ」
それから大きく傾けました。
「これが冬のお日様。光が薄くなったでしょ。この円がここの盆地。盆地の大きさは変わらないけど当たる光は弱くなった」
「なるほど」と、賢い優佳は一瞬で理解しました。
その後も夜明け近くなっても私たちはおしゃべりしてずっと起きていました。(続く) なんだか不気味な民間伝承をよんでるような独特の感じが癖になりますね 不気味さも民間伝承風も今のところは意図してはいないのですが、
「独特の感じ」とか「癖になる」かと言ってもらえるのは嬉しいですね。 エル・エステ(その12)
「ねえ、優佳、黄道光って見たことある?」
「コードーコー?何それ?」
「今から見に行こう」
パジャマのままで毛布で体を包みながら、家の人に気づかれないように玄関のドアをそっと開けて庭に出ました。
夜明け前の凍てつく寒気にびっくりしながら、優佳は言いました。
「あ、これがさっき言ってた木か。お日様は冬のほうが低いというのを芽実に教えてくれたんだね。じゃあ、そちらが南ね」
「うん、そう。東はあちらで、優佳がいつもいる東京の方向」と指をさし、「あのお山の上のお空が薄く光っているのはわかる?」
「うん、何か不思議な光ね。いつも見えるの?」
「ううん、秋だけ。一か月前ならもっとはっきり見えたんだけど」
「これって東京でも見えるのかな?」
「わかんない。空気が澄んでいて、街明かりが少ないところじゃないと見えないらしいけど」
「残念だけど東京では見えなさそうね」(続く) エル・エステ(その13)
月光によって私たちの長い影がつくられていたことに気づいて、それを言おうとしたら、優佳のほうが先を越されました。
「あれ?私たちの影がある」
二人で同時に後ろを振り返ると、西空に沈もうとしている満月がありました。
「黄道光が東に見えているとき、振り返ったらお月様が見えたという歌を大昔の柿ナントカとかいう人がつくったんだって。
パパが言うには『柿』が名前に入っているから、柿崎家のご先祖様かもしれないんだって」
「へ〜、すごいね」
「ああ、そうだった、黄道光は春にもお日様が沈んだ後に西の方向に見えるんだった。今度は春においでよ」
「うん、また来たい」
「絶対だよ。春にはコゴミも食べることができるし」
「コゴミってどういう食べ物?」
「山菜なの。ゴマ和え、おひたし、サラダ、天ぷらにしてもおいしんだよ。
私はマヨネーズをつけて食べるのが一番好きかな」
足下から冷気が全身に這い上がって、気づいたら私も優佳もブルブル震えていました。
お互いのその姿を見て、同時に笑い出し、部屋に駆け戻りました。(続く) エル・エステ(その14)
予定通りにその日の昼に優佳は帰っていくことになりました。
帰り際に庭の木に優佳は両手で抱き着きました。
「うん、私にもこの木の鼓動が分かる気がする。
冬が深まって厳しくなるから、少し休もうとしているのね」
抱き着かれたのは私のような気持ちとなり、嬉しくも恥ずかくなりました。
私に同調しているというのを態度で意思表示していて、それはあけっぴろげの友情の証に思えたからです。
赤らめたのを隠すため少し俯いていた顔を上げて優佳を見ると、振り返った優佳の視線は上に向けられていました。
「あれは?」と屋根の上を指さして、優佳は言いました。
「あれは風の向きが分かる風見よ。でも壊れていて、いつも東を指しているの」
「鳥の形をしていて茶色だけど、トンビ?」
「ううん、イヌワシ。珍しい鳥らしいけど、ここではちょくちょく見ることができるの」
「あれ?そのイヌワシの下の文字のOのところはWじゃないの?」
「よくわかんない。でもこないだ来てた大人のお客さんも同じこと言ってた。優佳はすごいなあ」
その文字はスペイン語でした。
スペイン語で東、南、北はEste、Sur、Norteで英語の頭文字と一致しますが、
西はOesteで、英語とは一致していないのです。(続く) エル・エステ(その15)
私たちの様子を黙って見守ってくれていた優佳のお母さんがしゃがんで目線の高さを合わせてから優しく言ってくれました。
「芽実ちゃん、今度は芽美ちゃんが東京に遊びにいらっしゃいね」
去って行く二人の姿が見えなくなるまでお見送りしていました。
優佳が教えてくれたことで、私の世界の中の東京は広がりました。
その日からは、東京のことを思うと、決まって優佳のことを思い出すようになりました。(続く) いま眠くて行き詰まっている。
今日は保守だけしておこう。 エル・エステ(その16)
優佳が来た日から2か月ほど経った1月のことです。
屋根裏部屋に初めて私を父は入れてくれて、「芽実、今日は龍を見ることができるよ」と予言しました。
「なんで、そんなことが分かるの?」と問うと、机から何かを取り出しました。
「それ、なあに?」
「これは龍神様の骨だよ」
「それを使えば龍神様が現れることがわかるの?私にもできる?」
「私の娘だからね」と言って、それを手渡しました。
隕石のようにも見える黒っぽい塊で、私の小さな掌と同じくらいの大きさでしたが、見た目よりはずっと重く感じました。
「目をつむって。何も考えないで・・・。何か感じないかな?」
「ダメ、なんにも感じないよ」
「いずれできるようになる。今日はとにかく出かけよう」
父が運転する車で全面結氷した湖に到着しました。
到着するや否や、ゴトゴトと大音響をあげ、氷の一部が山脈のようにせり上がりました。
湖面から1mくらいまで盛り上がり、その幅は数mで、長さは数kmにおよび対岸まで伸びていきました。
氷のせり上がりは氷の下を龍が這いずり回っている痕跡のように見え、はるか対岸で逆光の天空に龍が昇っていくように見えました。(続く) エル・エステ(その17)
「天を駆け昇っていった龍神様はどうなったの?」という質問を何度も父に浴びせました。
三日後の深夜に、盆地の北側の山頂に父は私を連れて行きました。
晴れわたっていて、澄みきった空に星々の光が輝く夜でした。
昼間でもそんな高いところまで登ったことはなかったので、深夜の唐突の登山に戸惑いました。
でも、父が一緒だったので安心しきっていました。
新雪に埋もれた道は真っ暗で、ヘッドランプの光に照らされることで初めて道が出現してくるかのようでした。
登っているときには静かでしたが、山頂に到着すると、突然、ものすごい突風が吹き荒れました。
ヒューヒューという空気を切り裂く鋭い音が耳を襲い、やっとの思いで私は目を開けていました。
私の小さな体が吹き飛ばされないように父は後ろから私を抱きしめました。
突風で舞い上がろうとする度にイヌワシに変身するという幻覚と父が力強く抑えることで引き戻される現実とのせめぎ合いの狭間に私はいました。
風で舞い上がった雪が巨大なうねりとなって、その中から龍の鱗や爪が見えました。
ついに猛り狂った龍がその全貌を現し、「芽実、見えるか!」と父が言うと、龍の顔の中に赤い目が現れました。
その赤い目が私を睨みつけました。
凍り付くような吹雪が激しく体全体に当たっているにもかかわらず、体の芯から熱が沸きだし、私は呆然と見つめていました。(続く) 広げた風呂敷をちゃんと折りたためるかが心配ですw
それにしてもオープンエントリーの小説スレなら、いつ始めていつ止めてもいいので気は楽だったのですが、
一応は専用の個別小説スレなので、基本的には一人で書いていかないといけない。
正直、今かなり苦しんでいますね。
あれだけの文字量で字数制限を受けるまで個別小説スレを埋め尽くして第四弾まで移行している庭さんは超人です。 エル・エステ(その18)
湖面の氷が夜に収縮して亀裂が入り、日中に上昇した気温で氷が膨張してせりあがったというのが、
湖の氷の中を龍が這いずり回ったかのように見えた真相であるということは後で分かりました。
その現象は諏訪湖の御神渡りと呼ばれています。
御神渡りは、上社の男神が下社の女神のもとへ訪れに行った足跡であると一般的には言われています。
でも、諏訪の伝統に博識な人からは諏訪湖は「龍神の郷」と呼ばれていて、その龍神伝説もいくつかあります。
暖冬続きだったので、私が生まれてからは御神渡りが現れたのはあの日が初めてでした。
あの日、先入観なしに目の当たりにした御神渡りの迫力が、逆光の中の龍を私に錯覚させたのでしょうか?
でも、湖に出現した龍の真相がどのようなものであれ、御神渡りをぴたりと予言できたのは父の不思議な霊力のためだと信じていました。(続く) エル・エステ(その19)
御神渡りの龍神伝説の中で最も私の興味を引いたのは次のような奇譚です。
諏訪の地でひどい干ばつが起こり、ついには諏訪湖までが干上がりました。
その地で一番美しい娘を人柱に捧げることになりました。
初夏の昼頃に、干上がった諏訪湖の湖底に生き埋めにしようとしたとき、突然、雲ひとつなかった空が真っ暗になり、龍が現れました。
でも、すぐに明るくなり、人柱は遂行されました。
人柱のおかげか、その後、十分な雨が降り、諏訪湖は水を満々と蓄えることができました。
そして、同じ年の冬に、巨大な龍が諏訪湖の凍結した氷を割って飛び出し、天空を駆け昇ったそうです。
今の東京都に当たる武蔵の国までたどり着いた龍は、人柱にされた娘の死体も運んでいて、その地で蘇らせました。
命を犠牲にしなければならなかった娘に龍神様が同情し、己の命を授けたというものです。
その子孫はその地で繁栄したと言い伝えられています。(続く) >>64
俺の場合は理佐ちゃんの魅力が凄すぎて勝手に妄想が湧いてくるだけだから自分では書いてる量とかには達成感みたいなのが全然無いんですよね
たぶん俺に妄想を喚起させる理佐ちゃんが凄いんだと思います
実際『ゆいぽんだから好きスレ』と『まほほんだから好きスレ』には興味が無くなってきてますからねw
専用スレだと手応え無いのがつまらなくなる原因だからブログと同時進行はおすすめかもです
保管庫代わりにもなるし、アクセス数の変動やいいねしてもらうのは励みになるかもですよ
俺以外にも楽しみにしてる読者の方は多いでしょうから苦しみを乗り越えて頑張ってください なるほど愛ゆえに書くモチベが沸き起こるというわけですねw
今はブログでも書こうという気は起りませんね。
匿名掲示板といえど、途中で放り出すのはみっともないので、
書き始めたものについては完了するまではやり抜こうという志ではいますが。 エル・エステ(その20)
長野県の木崎湖の上に現れる赤い龍灯は、龍の赤い眼であると昔から言い伝えられてきました。
その正体はカノープスではないのかと最近言われています。
あの日、深夜に北の山頂で見た龍の赤い目の正体もカノープスではないのかいう疑念が生じています。
カノープスというのは南半球ではよく知られている星です。
りゅうこつ座の一等星で全天でシリウスの次に明るい星です。
関東あたりを北限として太平洋岸で水平線ギリギリに見ることができるのですが、
南北に高低差の大きい長野では例外的に内陸部でも見ることができるようです。
あの盆地でも南側の山は北側と比べたずっと低いのです。
でも、条件が整ったときにしか見ることはできないと言います。
空の高い所は晴れていても山の稜線近くは靄がかかっていることもよくあり、見ることのできる確率はかなり低いと言われています。
夕日が赤くなるのと全く同じ原理で、高度が低いため光が通る空気層が長くなり、青い光が散乱され、カノープスは赤く見えます。
龍の赤い目の正体がカノープスであれ、その出現を引き寄せたのも父の不思議な霊力のためだと信じていました。(続く) エル・エステ(その21)
逆光の中にも吹雪の中にも何も潜んでいなかった。
龍が見えたのは幻覚によるものと考えるのが合理的な見方です。
でも、合理性というフィルターをかけて見るということは生(なま)の現実を見ていないということになるのかもしれません。
合理化するということは、その多様性を切り落としているということになり、ありのままの現実を見てはいないということになるからです。
まだ幼かったときの私は本能的な感覚を失っておらず、生き生きとした現実をあるがままに受け入れていたように思います。
合理性だけでは解き明かせない混沌とした神秘的な現実を見ていたとのではないのかと思っています。
幻を見たあのときの生き生きとした私こそが本当のもので、冷静に分析している今の私は活力を失った何者かのような気がしています。
混沌として生命力に溢れたあの龍をもう一度見てみたいと切に願っています。(続く) エル・エステ(その22)
私が小学校二年生に上がったときのことです。
母以外の女性のことを父が思っていたことを知りました。
龍の再臨を望んでいた私はその出現を予感するため、父が留守のときに屋根裏部屋に忍び入り、龍の骨に触れようとしました。
机の一番下の引き出しの奥にそれは入っていました。
龍の骨を取り出そうとしたとき、その下に封書があることに気づきました。
その裏には住所と「入江莉緒」という名前とが書かれてありました。
龍の骨はそっちのけで、私はその名前を凝視しました。
なぜ私はその名前を知らないのか?架空の女性なのか?実在の女性なのか?といろいろと思いが錯綜しました。
封は開いていたのですが、気が咎めて読むことはこのときにはできませんでした。
居間に戻り、母に尋ねました。
「ねえ、ママ、入江莉緒さんって知ってる?」
「いいえ、誰なの?」
「別に・・・、クラスに新しく転校してきた子よ」
このとき、私は初めて嘘をつきました。
母が知らなかったので、そこに父の秘密を嗅ぎ取りました。(続く) エル・エステ(その23)
入江莉緒が実在するのを偶然知ったのは、二か月後の六月のことでした。
娯楽の少ない地元の人のために、3か月に1回くらい公民館では古い映画を上映していました。
その前を通ったとき、父のバイクがあるのに気づきました。
さらに、二人の女性が映っているポスターを見たとき足が止まりました。
そのポスターの背景に映っているフラワーアートは父がデザインしたものだと直観したからです。
それ以上に私が目を奪ったのは、ポスターに「入江莉緒」の名前があったことです。
ポスターを指さしながら、受付の人に尋ねました。
「入江莉緒さんってどちらの人ですか?」
「入江莉緒さん?聞いたこともない名前ね・・・」とポスターを見た後に答えてくれました。
「ああ、出演しているわね。この髪の毛の長い女性が有名な女優さんだから、こちらのショートカットの人が入江莉緒さんね」
その映画を私はまだ見たことはありませんし、公民館で映画を観ている父親の様子も見たわけではありません。
しかし、その父の様子がありありと私の記憶では映りだされています。
スクリーンの中に入江莉緒が登場すると、父は深刻な面持ちになり、涙まで流してしまう。
私の空想したそういう状況が私の記憶には混濁してしまっているのです。(続く) エル・エステ(その24)
結婚前の若い頃に思いを残した母とは別の女性が父にはいる。
そう思うと、その夜、なかなか眠りにつけませんでした。
今の私なら冷静に受け止めることができるのですが、あの頃の私にとっては大きな衝撃だったのです。
就寝前には部屋の南側にある窓のカーテンは必ず閉めていたのですが、その夜は閉め忘れていました。
南中した月の光が差し込んでいました。
寝ている私の隣に誰かがいるような気がして横を見たら、庭の木の青黒い影が部屋の奥まで伸びていました。
あの日、優佳がその木を抱きしめてくれたことを思い出し、その影が愛おしくなり、しばし心は和らぎました。
でも、眠ったのか眠らなかったのかがはっきりしない夜となりました。
翌日、起こしに来てくれた母に「朝、食べたくないの。調子がよくないから、学校休んでいい?」と訊くと、あっさりOKしてくれました。
昼には、部屋まで母が持ってきてくれた御粥を食べました。
昨夜の木の影のことを思いました。
晴れてはいたのですが、前日からカーテンを開けっ放しにしていた窓からの太陽の直射光は部屋には差し込んでいませんでした。(続く) エル・エステ(その25)
タイムズスクエアビルの絵葉書を見た後に起こった変化が一度目だったとすれば、私の世界には二度目の変化が起こりました。
私の世界の中に別の「世界」ができたのです。
それは父の内面の世界です。
最初の私の世界には私の内面以外には内面はなかったので、父の内面を垣間見て戸惑いました。
また、父の内面は私のものではないというのは当たり前のことですが、あの頃の私は奇異に感じました。
私の世界は私の自我が中心にあり、人や物の外観もその構成要素となっています。
だから、私の世界は私の自我そのものではありませんが、それは相対的な意味においてにおいてです。
ところが父の自我と私の自我が違っているというのは絶対的な意味を持ちます。
父の世界は私には手の届かない世界なのです。
入江莉緒の出現は、私の世界と父の世界の境界線を思い知らせてくれました。
私の世界とは他者との境界で区切られた相対的な世界であるということに私は気づいたのです。(続く) >>75
何を仰います。
これよりはるかに長いものを書いてらっしゃるのに。 >>76
宮田ブログのことですね。
スレタイの「スナック真緒」が共通しているため、井口個スレからの誤爆でなければ、わざわざこんな場末スレへの報告ありがとう。
>>77
宮田ブログを読んでください。 エル・エステ(その26)
罪の意識からかはっきりした時期はよく覚えていないのですが、
入江莉緒の手紙を読む決意をして、あの後にもう一度私は屋根裏部屋に忍び入りました。
前略
もはや私のことは過去になっていることは承知の上で書かせていただきます。
それが良いことか悪いことかは分からないが、何か驚くべき出来事によってご自分の運命が決定されると貴方は言っていましたね。
そして、私との結婚の決断をするのは、それが起こった後だと。
「その出来事は起こったの?」と何度確かめても、「まだ起こっていないが、いつかきっと起こる」の一点張りでした。
しびれを切らした私が「もう別れましょう」と言うと、「長野に帰省して確かめてくるからそれまで待ってくれ」と答えましたね。
その出来事というのが「龍ともう一度出会う」ということでしたね。
今にして思えば、ちゃんちゃらおかしいです。
私をキープしておきたいが、はっきりした返事もしたくないという貴方は、「龍」という笑止千万な言い訳をしたわけですね。
卑怯です。
でも、あのときには貴方の言うことを真に受けて、その連絡を信じて待っていたんですよ。
一年経っても何の音沙汰もなかったときには、さすがに諦めましたが。
しょせんは口約束ですし、それが今でも有効だとは思ってはいません。
けれど、私よりも大切な人ができたのなら、そのときにそういう連絡をなぜ寄こしてくれなかったのですか?(続く) エル・エステ(その27)
貴方からの連絡を待っていた一年の間に女優としてのステータスを確立できるチャンスはいくつかありました。
でも、私は貴方を信じていた。
なのに、・・・・・
最近、そのことが急に甦って、直接、文句の一つでも言おうと思い立ち、貴方の実家まで行きました。
「イヌワシの家」と呼ばれていると貴方の言葉を思い出し、その家はすぐに見つかりました。
雪の降っている寒い日でしたが、その家の庭では雪の精かと見まごうくらい可愛らしいお嬢さんが楽しそうに雪遊びをしていました。
その様子を見て、訪問せずに、東京に戻りました。
貴方はとても幸福な人生を歩んでいらっしゃるようですから、水をさすようなことはしたくありません。
この手紙へのお返事も結構です。
ただ、最後に、皮肉交じりで訊きますね。
「龍と出会う」などという馬鹿げたことを本気で信じていらっしゃっていたのですか?
もしそうなら、期待と恐怖を延々と持ち続けた貴方の馬鹿げた妄想のせいで、
私の人生を無意味なものにしてしまったことをどうお考えでしょうか?
草々(続く) ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています