>>316

「伍」

目が覚めた。
 時計は三時をまわっていた。
 守屋はベッドから立ち上がりカーテンを開けた。
 夜明け前の輪郭の冴えた月が白いシーツを眩しく照らした。衣服は患者衣に交換され、飛行服は水が満たされた洗面器の脇に折り畳まれていた。
 守屋はベッドに横たわると、枕に頬を擦りつけ指でなぞり抱きしめた。
広瀬の背中の匂いを思い出して顔を埋め、起床までの数時間、再び枕を抱いて眠りに就いた。
 熱は下がっていた。
 
 点呼のラッパで再び目を覚ました。
 軍医の回診を受けた。
 ウィルス性の風邪と診断され、数日の休養が必要とのことであった。
 広瀬も守屋の回復迄待機となった。広瀬はなるべく守屋の側に居るよう努めた。
 二人で語り合いたかった。そしてそれは守屋も同じ思いであった。
 
 駐機場には珍しい機体が停まっていた。
 前線での指揮連絡を主任務とするこの指揮連絡機は、最高速こそ180kmと低速だが、離着陸距離が70m前後と驚異的な離着陸性能を有した機体であった。