平手に対して朗々と話す秋元康の目は、何十年もこの業界を渡り歩き、
自分のビジネス領域を飛躍的に拡大させてきただけあって恐ろしく老獪なものがあった。
一見インチキの中国人商人にもいそうな、
その小太りの体型で歳のわりにはふっくらとしてシワの少ない丸顔に、
お馴染みの太い「黒縁メガネ」の奥からのぞくその細くて鋭い目は、
常に物事の真理を深く洞察してるようにも、
常に計算高く巧みに他人の心理をコントロールしているようにも見えた。
平手の表情を冷静に観察していた秋元は、自分の提案の直後に
それまでかたくなだった平手の目が急に優しく変化したのを読み取った。
そしてその瞬間、秋元はこの提案はきっと実を結ぶだろうと予感した。

「今日はこの辺にして、君自身がまたよく考えてみてから返事をしてほしい。」

秋元はそう言って、自宅から平手を丁重に送り出した。

翌日、秋元の携帯にかかってきたソニーの事務所の今野からの電話に続けて
代わって平手が受話器にでた。

「先生、昨日は、ありがとうございました。なんかいろいろ取り乱したりしてすみませんでした。
私、先生の言われたように『留学』か『映画出演』のどちらかをやってみようかと思います。」

そして平手にとって新しい一歩が始まった。

                           [平手友梨奈 編 (終わり)]