「なんだ……こいつ……」

鳴滝のその驚愕した声が聞こえたのは、ちょうど四人を載せた車が二人の女の前に差し掛かった時だった。

鳴滝らしからぬその声に、思わず顔を上げた尾関が見たものとは、不敵な笑みを浮かべる例のライフル女と、その隣で相変わらず人形のような無表情で立つデリンジャー女だった。
ライフル女は既に右手にあのライフルを握り締めており、一方のデリンジャー女はコートのポケットに手を入れて立ち竦んでいる。

「う……」

そして、尾関もまたひとつの異変に気付き言葉にならない声を漏らした。その前後で、クリスと守屋茜も言葉を失っていた。
彼等の言葉を奪ったのは何か。それはライフル女の瞳だった。
白い眼球に浮かぶ虹彩。本来ならば黒色、もしくは焦げ茶色である筈の瞳。それが金色に変わっていたのだ。

「カ……カラーコンタクト?」

自らの鼓動の高鳴りを抑えるべく、尾関が可能性を探り出した。

「いや、違う。俺の目の前で色が変わった」

「私も見ました……」

尾関の推理を即座に否定した鳴滝の証言を、畳み掛けるようにクリスが肯定した。
得体の知れない現象を目の当たりにして動揺する鳴滝達の車が通り過ぎた瞬間、ライフル女は道の中央に立ちその手のライフルを構えた。

パァン!

渇いた破裂音が山野に響き渡った。その音で我に返った四人が振り向くと、ライフル女のその奥にフロントガラス蜘蛛の巣状のヒビを作った青い車が見えた。
そして、その四人の視線を遮るようにデリンジャー女がライフル女の背後に立った。
右手で跳ね上げられたモッズコートの下からは、革製のホルダーが現れた。
素早い手つきでそのホルダーから抜き取られた銃はデリンジャーではない。やはり小型ではあるが、少し形が違っていた。