【欅坂小説】欅坂の道化師【2冊目】
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欅坂46のメンバーを登場人物とした小説を書いています。メンバー以外の人物はもちろん架空の人物です。前スレはまだ書き込めますが、長文が書けなくなった為に新しくスレを立ち上げました。
前スレ
http://itest.5ch.net/test/read.cgi/keyakizaka46/1509967598/
保管倉庫
https://ameblo.jp/nyankozaka/ >>221
ごめんなさい!
思いっきり間違ってましたww
全然別人の名前だった。
何で気づかなかったんだろう
コンプリート順調に進んでますね
どんどん可愛くなってるし 驚愕する鳴滝の隣で、尾関梨香はあっけらかんとした表情で玲子の話しに耳を傾けていた。その彼女を見た玲子は、安堵したかのように微笑みを見せた。
「黒い物質は、私の鼓動に合わせて脈打つように動いていたのです。まるで生き物のように」
その玲子の言葉で、鳴滝の頭の中に真っ先に浮かんだのは磁性流体と呼ばれるものだ。その物質も同じような動きをするが、その動きは磁場を発生させる磁石によるのであって、玲子の手にしたものとは別物だ。
「その黒い物質と、玲子さんの目とどういう関係があるんですか?」
考え込む鳴滝に代わり、尾関梨香が素朴な疑問を投げかけた。
「私の目がこうなったのは、その黒い物質を触ったからなの」
そう答えを返す玲子の瞳は、一瞬だけ金色へと変わり再び黒へと戻っていた。
「つまり、金色の瞳を持つ者は、その物質に触れたものであると?」
右の人差し指をこめかみに当てながら、鳴滝が目を閉じたまま問い返す。
「そう言う事になります。そして、この金色の瞳は、誰にでも見えるものではないのです」
「と、言いますと?」
「詳しくは断言出来ませんが、ある条件を満たした人間のみが見えるようです」
「試された事があるんですか?」
その問いに、玲子は沈黙した。その沈黙にこそ、彼女が抑えて来た慟哭の意味があるように思えて、鳴滝は静かに彼女の言葉を待った。 更新乙です
秘密が徐々に明かされる展開にドキドキします
http://o.5ch.net/13pit.png
↑
これで残り5人まで来ました 暫しの時を挟み、立ち上がった玲子は振り向き様に写真立てへと手を伸ばした。引き寄せた写真を見る彼女の横顔はどこか寂し気で、そこから鳴滝はおおよその見当をつけていた。
「つまり、彼女達で試したと?」
その鳴滝の言葉に、一瞬抗議を含む鋭い視線を見せた玲子だったが、写真を手に鳴滝の前に正座し、彼を見据えた。
「当時の入所していた子供達は、下は三歳から上は十八歳の二十一人でした。その中で、私の瞳の色の変化に気が付いたのは、この五人だけだったのです」
「それから……どうされたんですか?まさか……彼女達にも?」
「はい。黒い物質に触れさせました」
「何故そんな事を……得体の知れない危険なものかも知れないのに」
「彼女達に希望を持って欲しかったのです」
「希望?」
繰り返された言葉に、鳴滝と玲子は互いの目の奥を探るように見つめ合ったまま黙り込んだ。
その二人を、やはり尾関梨香も黙って見つめる。この時の彼女には、若干だが余裕が生まれていた。未知である事に依然変わりはないが、金色の瞳の謎も少しだけ彼女なりに理解出来た。
例えてみれば、幽霊だと思っていた磨りガラスの向こうので揺れる白い影が、どこからか飛んで来たビニール袋だったみたいなものだ。正体さえ分かればなんて事はない。
尾関は自分にそう言い聞かせていた。無論、そんな単純な事ではないのも理解はしているが。
とにかく、尾関は目の前の鳴滝と女鳴滝のやり取りを心のどこかで楽しんでいた。 「説明するまでもなく、あの施設にいた子供達は、それぞれの家庭の事情により集まって来た子供達です」
「わかります」
語り出した玲子へと、鳴滝も神妙な面持ちで返す。
「施設に入るまでは、劣悪な環境の中にいた子供もいます。産まれて来た意味さえ、親の愛さえ知らない子も」
「そうだと思います」
玲子の言葉にまるでレールを敷くかのように、鳴滝が言葉を繋げていく。
「だから……せめてあの五人の子供達には、自分を信じて生き抜く力を身につけて欲しかったのです。御理解頂けないかとは思いますが」
「金色の瞳を持つ事が、何故に自分を信じる力になると?」
「あの黒い物質……四〇四号から得られるものはそれだけではありません。様々な特殊な力を得る事が出来るのです」
そこで鳴滝は沈黙した。だが、それは驚愕によるものではなかった。それは、隣でその横顔を見た尾関梨香にも感じ取れた。彼は何かを知っているのだ。
それは、あのショッピングモールの駐車場で口にした『マグス』と呼ばれる存在と関係しているのかもしれない。
尾関梨香自身にしても、きっと昨日までの彼女なら、今の玲子の話しなど鼻で笑い飛ばしていたかもしれない。これまでの案件で対峙して来たインチキ霊能者達に向かうように。
しかし、この島でのたった一日が、彼女を変えてしまった。非日常が彼女の中で日常の一部へと変わりつつあったのかもしれない。
その時、鳴滝のスマートフォンが振動を始めた。取り出した鳴滝の顔が一瞬曇る。
「誰からですか?」
「ああ、モナリザの岡ママだ。申し訳ないのですが、少しお時間を頂きます」
尾関をちらりと見た後、鳴滝は立ち上がって玲子へと頭を下げた。 「お待ち下さい」
スマートフォンを片手に玄関へと向かおうとした鳴滝を、玲子が呼び止めた。
「お仕事のお電話なら、それなりにお時間もかかるかもしれません。念のためにこれを」
そう言って玲子が彼に手渡したのはこの家の合鍵だった。
「お借りします」
再び頭を下げて、鳴滝は急ぎ足で出て行った。その様子から、電話の相手が岡ママなどではない事を尾関梨香は気付いていた。
もし、本当に岡ママであれば、即座に切っていた筈だ。それに気付きながらも、何故に尾関梨香は後を追わなかったのか。
彼女は足が痺れて動けなかったのだ。自分の不甲斐なさに歯軋りしつつ、尾関は足の裏を手で押さえていた。
「ゆっくり脚を伸ばして下さい。鳴滝さんが戻って来るまではいいじゃありませんか」
「は……はい」
声を詰まらせなが、尾関は苦悶の表情を浮かべていた。それを見た玲子にも、最初の穏やかな笑みが戻る。
「怖いでしょう?私のような人間は」
「いえ……全然……怖いのはそこじゃなくて……」
「そこじゃなくて?」
「何て言うか……上手く言葉に出来ないんですけど……あ、やっぱりいいです」
前に伸ばした両脚を手で摩りながら、尾関梨香は伏し目がちにそう言っていた。
「きっと尾関さんは寂しくなったのね」
その意外な言葉に、尾関は目を丸くした。
「え?玲子さんの持つ特殊な力って、心を読む事ですか?」
「まさか……同じ女だからこそ、分かる事もあるんですよ」
そう言いつつ、玲子は尾関の湯呑みへとお茶を注ぎ込む。脚の痺れに悶える自分と違い、玲子のそのしなやかな所作に、同じ女と呼ばれた事にどこか恥ずかささえ感じてしまっていた。 「きっと尾関さんが怖がっているのは、鳴滝さんが、どこか自分の手の届かない世界へと行ってしまいそうな事なのね」
「まさか!そんな事ありませんて!へい!」
動揺から尾関の言葉がべらんめぇ口調になっていた。
「大丈夫……大丈夫ですよ」
落ち着いた玲子の声に、尾関は心が穏やかになっていくのを感じていた。
「確かに、彼は何か他の人とは違うようですね」
「やっぱり……」
少しばかり肩を落としたように見えるその尾関へと、玲子はそっと湯呑みを差し出した。
「彼の持つ力は、本来、人間に備わっている第六感の強いものだと思います。広い意味で言えば、霊能力と言ってもいいのかしら」
「はぁ……」
語り出した玲子の話しの意図が読めず、尾関は思わずそう口にしていた。
「それに対して、黒い物質に触れた私達の力は超能力と呼ぶべきね」
「霊能力と超能力って、違うものなんですか?」
「そうねぇ。分かり易く例えれば……」
その頃になると、玲子の語り口も鳴滝のを前にしている時から比べれば、かなり親近感を憶えるまでに柔らかくなっていた。
「発現する力をお水に例えれば、私達の力はこれと同じね」
玲子がそう言ってテーブルの上に白いポットを置いて見せた。 「ポット……ですか?」
痺れの治った脚で正座し直した尾関は、少し前のめりになりながら問い返した。
「そう。私達の力はこのポットの中のお水と一緒で、一度に使える量には限りがあるの。勿論、人によってポットの大きさは違うのでしょうけれど」
そう言った玲子は、意味あり気な苦笑いを浮かべた。
「じゃあ、霊能力の方は?」
「それちらは水道のお水みたいなものかしら。ほぼ無限と言っても過言ではないでしょうね」
「霊能力、最強じゃないっすか!」
この時、玲子は理解した。この尾関梨香という人間は、興奮した時にべらんめぇ口調になる事を。
「そうでもないの。むしろ、その逆かもしれない」
「何でですか?力を使いたい放題じゃないですか」
「本物の霊能力者。そう呼ばれる人達は、蛇口のひとつでしかないの。元栓を止められれば、ただの飾りでしかないわ」
そう言って、憂いるように目を伏せた玲子の表情を見た尾関梨香の中に、彼女なりのひとつの仮説が湧き上がった。
「ひょっとして……玲子さんは元々……ですか?」
仮説を立証させるべく言葉を発した尾関梨香だったが、肝心の一言を言いそびれてしまっていた。
「そうなの。私も鳴滝さんと同じような人間だったわ」
玲子のその言葉により、尾関梨香の仮説が立証された。そして、同時に彼女の心に突き刺さっていた疑問の棘も消えた。
この家に来てからの鳴滝と玲子を結ぶ、目に見えない何かの繋がり。それが、たった今、ようやく分かったのだ。
だが、尾関は葛藤していた。何故なら、それを認める事は、自分と鳴滝の間に越えられない壁を自ら築き上げてしまうかのように思えてならなかったからだ。 昨日は怒涛の更新乙でした
こちらもコンプリートまで残り2人になりました
http://o.5ch.net/13pz2.png >>232
コンプリートまで、あと一歩ですね(^_^)
楽しみにしています! >>233
すいませんw
連投になっちゃうからここには書きませんでしたけど
しましたw
ラスト↓
http://o.5ch.net/13qkh.png >>234
>>236
コンプリートお疲れ様でした!
偉業を成し遂げましたねww
>>235
さらにややこしく
なります 「大丈夫……大丈夫ですよ」
尾関の葛藤を見抜いたのであろうか。
川口玲子が再びその言葉を口にした。
「尾関さんの一番の武器は、その素直さだと思います」
「そ……そうっすか……」
いきなり何を言い出すのか?と戸惑った尾関の口から出た言葉はそれだった。
「その素直さがあれば、鳴滝さんをも超える事が出来ますよ」
「でも、私は勘が鈍いと言うか、よく怒られてます」
そう言た尾関は溜め息をひとつつき、肩を堕としてうな垂れた。
「では、第六感を鍛える方法を伝授しましょう。我流ですが、それでもよろしければ」
「鍛えれるものなんですか?第六感って」
「うな垂れているよりかは、いくらか前向きではありませんか」
眉を潜めた尾関梨香へと、玲子は呆れ顔でそう進言していた。
「ダメ元でやってみます!」
玲子の言葉に何かが吹っ切れたのか、尾関が声高に宣言する。
「ダメ元で……ですね。では、こちらへ」
彼女の失言に苦笑いで答え、玲子は尾関を誘うように、縁側の廊下を奥へと進んで行った。尾関もすかさずその後を追う。
前を歩く玲子の後を追いつつ、その長い黒髪の放つ漆黒の妖艶さに惹き込まれそうになった尾関の前に、照明の灯りと共に現れたのはタイル貼りの小ぢんまりとした浴室だった。 「ここで……第六感?」
何かしらの道場のような部屋を想像していた尾関梨香にとっては、拍子抜け以外の何物でもなかったようだ。
「生活に活かせるものは、やはり普段の生活の中からしか生まれないものですよ。第六感なんて、言うほど特別なものでもないのですから」
今や尾関梨香の師匠となった玲子のその顔からは、笑みはいつしか消え去っていた。その変化に気付いた尾関は、ただ黙って彼女の動きへと目を向ける。
その尾関の目の前で、玲子は浴槽に波々と張られた湯気立つお湯で手の平を濡らし、シャンプーの雫を一滴垂らして泡立てた。
「さぁ、手を出して」
玲子のその言葉に差し出された尾関の手の平の上には、ひと塊りの真っ白な泡が乗せられた。
「その泡を両手で軽く押してみて下さい。互いの手の平が触れないように」
玲子に言われるがまま、尾関梨香は挟んだ泡を両手で押していた。細かな泡から僅かな弾力を感じる。
「今度は少し離して」
ゆっくりと手を離すと、引っ張られる感覚が手の平に伝わる。
「それが気のイメージです。その感覚を憶えておいて下さいね」
そう言うと、玲子は尾関の手の泡をシャワーで洗い流した。
「次はこの浴槽のお水の表面に手の平を乗せてみて下さい」
事務的に繰り出される玲子の指示に素直に従い、尾関は微かに温もりを残す水の表面へと両手の平を当てた。 「では、目を閉じて水を感じて」
目を閉じて意識を集中させた手の平に、緩やかな水のうねりが伝わって来た。
そのうねりに手の平を任せていると、指の先から徐々に水と一体化していくような不思議な感覚に襲われて、尾関梨香は思わず水面から手を上げてしまった。
「この水面の感覚が、練り上げられた気の感覚と近いものです。憶えておいて下さい」
「あの……」
流石の尾関も疑問の声を上げた。
「さっきから気の感覚と言ってますけど、それが第六感と関係あるんですか?」
「ええ、もちろんですとも。第六感を高める為に最も必要なものはイメージする力。そのイメージする力に必要なものは、素直な心です」
尚も事務的に、玲子は尾関へと語る。その彼女の前で尾関は首を傾げた。
「よく……分からないんですけど」
その尾関の言葉に、玲子はその奥を覗き込むかのように彼女の瞳を真っ直ぐに見据えた。
「ひょっとして……鳴滝さんは、たまに何もない場所を見つめていたりする事はありませんか?」
「確かに!猫みたいに、何もないところをじっと見てたりします」
唐突な問いではあったが、尾関にはいくつも思い当たる節があり、ついついそう即答していた。
「見てみたいと思いませんか?彼が見ている世界を」
意味あり気な玲子の問いかけに、尾関は一瞬戸惑った。それを見てしまったら、もう逃れられない。何からどう逃れられないのかさえ分からないが、彼女の中の何かが激しく警鐘を鳴らしていたのだ。 「怖いのならここまでにしましょう。第六感など無くても、人は生きて行けるのですから。でも……」
尾関梨香の戸惑いに気付いた玲子が、寂し気にそう呟いた。
「でも……何ですか?」
尾関は堪らず、その玲子が言いそびれた言葉の続きを求めていた。
「ここから先の彼にとって、貴女は足手まといになるだけです。互いが心を痛める前に、
自ら身を引く決断も必要になるでしょう」
「納得出来ません!いきなり何を言い出すんですか?」
「これから貴方達が踏み込もうとしている世界は、言わば魔界。この国の法律でも手出し出来ないのです。ましてや、その法律に従う警察は言うに及ばず」
重みを帯びた玲子の声に、尾関は次の言葉を失い、ただ目の前の玲子の目を見つめ返した。
「頼れるものは己のみ。他人の心配などしている暇などないのです」
「それは極論です」
玲子の静かな威圧に怯みながらも、尾関が何とか言い返した。
「果たしてそうでしょうか?己を持たぬ者達が、いくら寄り集まったところで何かを成し得るとは思えません」
玲子の声に、更に深みが増して行く。その声に呑み込まれそうになりながらも、尾関は必死に抵抗していた。
「私は私。それの何が悪いんですか?」
「利己主義と個人主義は違うのです」
「ますます意味がわからない!」
そこで尾関がついに感情を露わにした。
「個を持たぬ者達の集まりは脆いのです。物言わぬ大衆(サイレントマジョリティ)に、何かを変える力など無いのです」 「それぞれが自己主張ばかりしていたら、纏まるものも纏まらないじゃないですか!」
それでも尾関梨香は喰い下がった。もう、引くに引けない。今日、会ったばかりの玲子に、幾度も危機を一緒に乗り越えて来た鳴滝との時間を、全否定されているような気がしてならなかったのだ。
全てを悟ったかのような彼女の態度が、いくらか癪に触った事もあるが。
「自己を確立しなさい。まず、己が何者であるかを知りなさい」
「急にそんな事言われたって、出来るわけありません」
「出来ないではなくて、そうしようとしないだけでしょう?」
狭い風呂場で、女二人が哲学的な論争を交わす。それは側から見れば何とも滑稽に思えた。しかし、当の本人達は大真面目に睨み合っている。
「だって、学校ではそんな事教えてくれませんでしたし」
「当然です。個を無くす為の教育ですもの」
「とにかく!」
そこで尾関がついに声を荒げた。
「私は私のやり方で、鳴さんとやって行きます!」
その尾関梨香の言葉に呼応するかの様に、玲子の瞳があの金色へと変わっていた。
「あなたに何が出来るの?」
何処かで聞いた言葉と何処かで見た瞳。
そうだ。あの煉瓦造りの教会で、ライフル女に言われた言葉。
あの時、何も言い返せなかった自分への後悔と、再び答えるべき言葉を見出せない自分への絶望感が尾関を包み込んだ。
「目を閉じて」
不意に差し向けられた玲子の声に、尾関は大人しく従っていた。
「何が見えても、目を開けないで」
その言葉と共に、尾関の額に玲子の人差し指が当てられた。
「何?……これ?」
漆黒の空間に光り輝く青い星々。あるものは小さく、またあるものは大きく光を放つ。それはいつか見た宇宙の写真のような。その中において、一際輝きを放つ星があった。 「中心で輝く星の色は?」
尾関の中に拡がる宇宙の奥から、玲子の声が響いた。
「黄色……」
「それが貴女自身の力を示す色です」
「これが私の力の色?」
「尾関さんの中に眠っている力です。それを活かすか眠らせたままにしておくかは、貴女次第……」
そう言った玲子が尾関の額から指を離すと、尾関が見ていた星々は瞬時にその光を消していた。
「何故、あんなものを私に見せたんですか?」
不可思議な世界を垣間見てしまった興奮を抑えつつ、尾関は努めて冷静に玲子へとそう問いかけた。
「百聞は一見にしかず。口でいくら説明しても、信じて頂けないでしょう?」
「信じる信じない以前に、頼んでもいないんですけど」
「余計な事でしたかしら?」
売り言葉に買い言葉。不満そうに眉をひそめて抗議する尾関梨香に、いつしか玲子も語気が強くなっていた。
「何の力か知りませんけど、私には必要ありませんから」
「そうですか。そこまで仰るなら、これ以上は干渉する事は避けましょう。但し……」
大人しく引き退るかと思われた玲子が、最後に含みを持たせた眼差しを尾関梨香へと向けた。
「鳴滝さんは、命を落とす事になるでしょう。貴女が変わらなければ……」
「どう言う事ですか?」
「それが彼の運命と言う事です」
「そんなの、無茶苦茶な屁理屈ですよ!」
「どう捉えようと、それも尾関さんの自由です。貴女が菅井友香と出逢った事も、運命の歯車のひとつでしかなかったのですから」
感情を露わにする尾関梨香とは対照的に、淡々と、そして機械的に川口玲子はその口から言葉を紡ぎ出す。その抑揚のない語り方が、考え込む鳴滝と何処かが似ていて、それが更に尾関の感情を煽っていた。 >>245
こちらこそ、保守ありがとうございます!
( ̄^ ̄)ゞ 「他人の運命を勝手に押し付けないで下さい!それに、鳴さんは玲子さんが思っている程、弱くはありませんから」
「そうね。彼は強いわ。けれど、彼がこれから相手にしようとしているのは、人でありながら人ならざる者なのです。彼の力をもってしても敵うかどうか」
腰に手を当てた臨戦態勢の尾関に対し、玲子はいつしか落ち着き払っていた。その態度が益々どこか鳴滝に似ていて、尾関もついつい声を荒げていた。
「そんなに強い相手なら、私がいくら頑張ったって敵いっこないじゃないですか」
「そうではありません。尾関さんだからこそ出来る事があるのです」
「その、私だからこそ出来る事とやらを教えて頂きましょうか?」
この問答が無意味だと知りつつ、尾関はどうにも後には引けなくなっていた。
「では……まず、その猫背を治す事から始めましょうか」
「あ……はい」
予想の斜め上からの指摘に、尾関は思わず胸を張って直立していた。
「綺麗ですよ。女性の猫背はみっともありませんからね」
「以後、気を付けます。あ、いや、そう言う事ではなくて……え?そこですか?」
直立不動のままで自問自答する尾関梨香を見て、玲子は口元を手で隠して笑顔を見せた。
「この人間世界には、男性か女性しかいません。そして、貴女は女性です。まず、自分が女性である事を自覚して下さい」
「そんな事……知ってます」
玲子のペースに引き込まれている事を感じて抗いつつも、今の尾関にはそう答えるしか出来なかった。
「自らが女である事を自覚した女性に、勝てる男性なんていません。第六感より女の勘。
それこそが尾関さんの武器であり、女性にしか出来ない事なのです」
幾らか謎めいてはいたが、その玲子の言葉は尾関にも何となくではあるが理解出来た。
尾関流に言えば、つまりはこう言う事だ。
女、舐めんなよ。その一言であった。 やべえ、ぐうたら探偵物語だと思っていたら壮大な世界観を孕んだ物語に目眩を覚えます
ちなみに僕も昔気功やってて手から気を出せます
体の中に気を回す修練てイメージする力が鍛えられるせいか妄想体質になってしまいましたがw >>248
気功やってたって何気に凄いww
ぐうたら探偵をこれからどうするか悩み中 自分は昔、自立訓練法をやってたから身体の皮膚温を微妙に上げられたぜ←もう多分無理
http://o.5ch.net/13wzd.png 少し時を戻し、川口邸を出た鳴滝はスマートフォンを耳に当てたまま歩き出していた。
「よぉ、芽依ちゃん。電話待ってたよ」
「誤解してるんじゃないかと思って。あの紙人形は、あたしがやったんじゃないから」
スマートフォンから響く声は、東村芽依のものだった。
「ほう……」
鳴滝はそう言うと、スーツのポケットから取り出したペン型のライトで足元の一点を照らしてしゃがみこんだ。
「信じてないみたいね」
「いや、そう言うわけじゃない」
鳴滝がじっと見つめているのは、地面に刻まれた二本の細い轍。おそらくはバイクのものだろう。
「あと、マグスって奴も本当に知らないから」
「だろうな」
敷地の奥へと続く二本の線は途中で途切れていたが、鳴滝はその先の闇へと足を進めた。
「ねぇ、ちゃんと聞いてる?」
「ああ、聞いてるよ」
芽依の問いかけに気の無い返事をしつつ、
鳴滝が見つけたのは川口邸の裏手に隠れるようにして立つ離れの一軒家だった。
「とにかく、あたしはおじ様を敵に回すつもりは、これっぽっちもないからね」
「ビンゴ!」
手にしたライトが照らし出した離れの軒下に、青いビニールシートを被ったバイクを発見した鳴滝が思わずそう口にしていた。
「ビンゴ?何言ってるの?」
「ああ、いや、こっちの話だ。それより、そんな事を言うためだけに、わざわざ電話して来たわけじゃないだろう?」
そう問い返しつつ、鳴滝は離れの一軒家の玄関らしきドアの前に立った。 「それがさぁ、おじ様達のいる家の前の道に、変な奴等がうろついてるんだけど。気付いてないかと思ってさ」
「変な奴等? 」
「男が三人。見た感じ地元の人間みたいだけど」
芽依の言葉に、鳴滝は離れの一軒家の玄関に背を向けて速足で歩き出した。
「日焼けの仕方と、筋肉のつき方からして漁師かな。ちょっとふらついてるから、多分酔っ払い」
「近くにいるのか?」
「あたし?そっちから見えない離れたところにいるよ」
芽依の言葉を聞き終える前に、鳴滝は敷地から外の道へと一歩足を踏み出していた。
「この暗がりでも、そこまで見えるのか?」
「あたしには『見える』の」
見渡すと、確かに向かいの石塀に寄りかかる様に男三人が並んで立っていた。
中央に立つのは五十代前後の男で、この寒空の下にも関わらず、上は白いティシャツ一枚しか身につけていない。
ボディビルダーとは違い、必要最低限の無駄の無い筋肉は真っ黒に日焼けして、ティシャツの白をより一層際立たせている。
その右隣に立つ男は、髪を金髪に染めて眉毛もあるのか無いのかわからぬほど細く剃っている。だが、まだ幼さの残る顔付きから、まだ十代なのかもしれない。
そして左隣りの男は、中央に立つ親分らしき男に負けず劣らずの筋骨隆々な体格で、黒い短髪の下の表情は、他の二人とは違い落ち着き払っている。
「化け物屋敷のお客さんって、あんたね?」
中央の親玉が、にやけた顔で鳴滝へとふらふらと歩み寄って来た。漂って来たのは独特な香りを放つ酒の匂い。おそらくは芋焼酎だろう。九州と言う土地柄を考えれば、別段不思議でも無いのだが。
「化け物屋敷とは?」
「とは?……あんた、東京から来たとね?」
鳴滝の口調を揶揄う様に、親玉の男が問い返して来た。
「まぁ、その近くかな」
「そんな遠かとこから、何ばしに来たとね?」 「何をしに来たか?その前に、あんたらこそこんな所で何をしてるんだ?」
酔っ払い相手に如何なものかと思いつつ、鳴滝も少し強気で問い返す。
「おいたちは、化け物屋敷に珍しく余所者が入って行ったって聞いたけん、見に来ただけたい!」
「だから、その化け物屋敷ってのは何なんだよ?」
「あんた知らんとね?ここに住んどるおなご(女)は、目の色が夜になると金色になる化け物っちゅう女たい」
「それが……どうした?」
横暴な態度の男に対し、鳴滝は鼻の頭が触れそうになるまで顔を近づけて問い返していた。
「あんたん為ば思うて言うとると。あの女に関わるとろくな事なかったい!はよ、逃げない」
「はぁん?」
その声を上げ時には、既に鳴滝は親玉の襟首を掴んで引き寄せていた。
「あんたが、彼女の何を知ってるってんだ?」
「のぼせ上がんな!あの女のせいで、子供達が死んだと!あんおなごは化け物たい」
「化け物化け物って……勝手に決めつけるんじゃねえぞ」
そう言い終わる前に、鳴滝は渾身の力で親玉を投げ飛ばしていた。
「なんや!きさん!(貴様)」
そう叫んで最初に殴り掛かって来たのは、金髪の例の若い男の方だった。鳴滝はその彼の右手拳を左手の甲で受け流し、右の手の平で彼の顎を打ち抜いた。
気を失なって崩れ落ちる金髪の奥で、残る一人は腕を組んで鳴滝を見据えていた。
「かかって来いよ」
彼には珍しく、鳴滝が先に挑発していた。
その言葉を受けて、残る短髪の男が左足を軸に右脚の蹴りを繰り出した。その脚を両腕で受け止めた鳴滝へと、間髪入れず男の左拳が襲いかかる。
それを間一髪かわした鳴滝へと、背後から細い包丁の刃が差し向けられた。 「余所者が、偉そうにすんな」
そう言い放ったのは親玉の男だ。その黒い腕の先に握られていたのは、魚を捌く為の柳刃包丁と呼ばれる刃物だった。
「やれんのかよ?魚は捌けても、人を捌いた事ねぇだろうが」
喉元に刃物を突きつけられても尚、鳴滝は強気にそう言い返す。
「やってやろうやんか。覚悟せんかい」
その言葉とほぼ同時に、細い包丁の刃先が鈍い金属音と共に砕け散った。
「痛っ!」
包丁から伝わった衝撃に、自らの右手を抑えつつ、親玉の男が踞る。
何が起こったか、見当もつかず呆然とする短髪の男の前で、鳴滝だけが笑みを浮かべていた。
「化け物なんて勝手にレッテル貼って忌み嫌う前に、てめぇらの無知を恥じろ!」
そう叫ぶと同時に、鳴滝は目の前で立ち竦む短髪の男の顎を右肘で下から打ち上げる。不意打ちを喰らった男は、そのまま背後へとまるで棒切れの様に倒れ込んでいた。
「お前……俺を殺す気か?」
まだ通話状態のままにしてあったスマートフォンを耳に当てた鳴滝が言った。
「ちゃんと包丁だけを狙って撃ち抜いたんだから、褒めてよね」
その鳴滝のスマートフォンから、そんな東村芽依の声が響いた。
「いや、危な過ぎるだろ?手元が狂ったら俺に弾が当たってたぞ」
「あたし、絶対外さないから」
その芽依の言葉に、鳴滝は苦笑いで溜め息をひとつ漏らし、側で踞る親玉の後頭部へと止めの蹴りを繰り出していた。 >>257
すずもん、カッコいい!
めいめいの凄腕の謎をこれから解き明かす予定 「芽依ちゃん、君はなかなかの策士だな」
「何のこと?」
「ちょっと待ってろ」
そう言った鳴滝はスマートフォンを内ポケットへと入れて、気を失って道に横たわる男達を石塀へと引きずり寄せていた。
「こいつらをけしかけたのは君だろ?」
再びスマートフォンを耳へと当てた鳴滝の言葉はそれだった。
「どうしてそう思ったの?」
「君が、こいつらを漁師だと言ったからさ」
川口邸から出た表の道路を、鳴滝は右へと向かって歩き出した。刃物が砕けた飛んだ方向から推測して、狙撃ポイントはそちら側になる。
芽依の使用するライフルの射程距離から考えると、そう遠くない場所に彼女達はいるはずだ。
「それだけの事で?」
「それはこちらのセリフだな。あの身なりだけで、彼等を漁師だと普通は判断出来ない」
「何となくそう思っただけよ」
「それに料理人ならともかく、その辺の漁師が柳刃包丁みたいな長い刃物は持ち歩かないさ」
「飲み屋で借りて来たんじゃない?」
「包丁は料理人の命だぜ。ましてや酔っ払いに貸したとなると、下手すりゃ殺人幇助になりかねない」
「それはそうかもね」
電話の向こう側の東村芽依は、あっけらかんとしている。その姿を探すべく、鳴滝は一人通りを歩く。
「それに『どうしてそう思ったの』なんて言い方は、答えを知っている人間のものだからな」
「おじ様、細かい事を気にするんだね」
「運が悪い事に、俺はその細かい事を気にするのが仕事の探偵なんだよ」
そう答えつつ鳴滝が歩く武家屋敷通りの先は少しばかり下り坂になっており、石畳が終わった所で信号機が待ち構えていた。 「そこにいたのか」
信号機の先に続く道路の路肩に停められている赤い軽自動車を見つけた鳴滝が呟いた。
跳ね上げられたハッチバックドアの中で、長い銃身のライフルを構えた人影が何とか確認出来た。
「おいおい、何丁のライフルを持ってるんだよ?」
助手席の背もたれに寄りかかり、荷台で東村芽依が抱えているライフルは昼間のものとは明らかに違う形をしていた。
「TPOで使い分けてるの」
「何者なんだよ、君らは」
そこで鳴滝の進行を阻むように、信号機が青から黄色、そして赤へと変わっていた。
「探偵なら、自分で調べたら?」
「金にならない仕事はしない主義なんでね」
「そのうち嫌でも知る事になるかもよ」
そう言った東村芽依がハッチバックのドアを閉めるのと同時に、軽自動車のブレーキランプが点灯した。
信号機は未だに赤。鳴滝はスマートフォンを耳に当てたまま、交差点の一角で立ち竦んでいた。
「何故、俺を試す」
鳴滝のその問いかけに、芽依からの返答は無かった。そして軽自動車は走り出す。
「クロウは本当にこの島に来てるのか?」
走り去る車のテールランプを見ながら、鳴滝は尚も問いかける。
「来てるよ。今も何処からか見てるかも」
そこで、やっと芽依の声が返ってきた。 「そのクロウが現れた時、君らはどうするつもりなんだ?」
「そんなの決まってるじゃない」
芽依がそう答えた時には、彼女達の乗る車は突き当たりの角を右へと曲がって姿を消してしまった。
ようやく青へと変わった信号機へと背を向けて、鳴滝は尾関梨香が待つ川口邸へと向けて坂道を登り始めた。
「殺し屋の殺し屋たるクロウを殺して名を挙げるつもりか?」
「まさか。クロウを仕留める。それがボスの命令。ただそれだけ」
「そんなに簡単に仕留めれる奴じゃないだろう」
「あたし達なら出来るわ」
「何故、そう言い切れる?」
「あたし達は最強だから」
そこで鳴滝は足を止めて、道の先へと目を凝らした。彼が端へと寄せた男達の姿が無い。
目を覚まして逃げ帰ったのか、それとも……
最悪の予感に鳴滝は走り出した。
川口邸の前に辿り着いた鳴滝の前に、石畳の奥から、金髪の若い男が投げ飛ばされたように転がり出た。
反射的に鳴滝は男のこめかみへと蹴りを入れ、石畳の奥へと目を向けた。
通りの脇に立つ街灯の淡い光の中に立つひとつの人影ある。だが、それはあの男達のものではない。
「探したぜ、平手友梨奈」
そこに立つのは、紛れもなく鳴滝がここまで追って来たその本人だ。ライブハウスで着ていた赤いジャケットを羽織り、闇の奥から鳴滝を見据えていた。
そして、その背後から長濱ねるも姿を現した。こちらも無表情に鳴滝へと目を向けている。
「殺してないだろうな?」
平手友梨奈の両脇に横たわる二人の男に気付いた鳴滝が、揶揄うように問いかけた。
「殺す価値さえないよ」
それが鳴滝が初めて聞いた平手友梨奈の声だった。 「なんだよ、そのやりきった感満載のドヤ顔は」
男二人をいとも簡単に打ち倒す腕に感心しつつも、その見下すような眼差しが鳴滝の癪に触ったらしい。
「別に」
前髪を右手で掻きあげて、平手友梨奈は首を傾げながらそう言った。十代の子供にありがちな反抗的な態度に、鳴滝は苦笑いを浮かべる。
これが尾関梨香だったら、その鼻を摘んでやるところなのだが。
「とにかく、俺は敵じゃない。菅井友香もな」
「だから、なに?」
「だから……もう逃げ回るな」
「僕は逃げてなんかいない」
確かに、ただ逃げ回っているわけでもない。実際、鳴滝に襲いかかって来たのだから。
「ああ、そうだ……」
そこで鳴滝は、何かを思い出したような声を上げた。
「ほら、忘れ物だ」
鳴滝はそう言うと、内ポケットから取り出したハンカチに包まれたダガーナイフを平手友梨奈へと差し出した。
だが、彼女は直ぐには受け取ろうとしなかった。ジャケットのポケットへと両手を入れたまま、鳴滝の真意を探るかのように彼の目を見つめていた。
「昼間の続きをやるかい?」 鳴滝の意味深な言葉と同時に、平手友梨奈は右足でダガーナイフを持つ彼の手を蹴り上げた。
反射的に後ろへと下がった鳴滝の目の前で、宙を舞うナイフを平手友梨奈が受け取り、その切っ先を彼へと突き出す。
鳴滝は向けられたナイフを持つ平手友梨奈の腕を、弧を描くように左手で掴み取り、右手を添えて身体の回転を加えて捻り上げた。
堪らずナイフを離した平手友梨奈だったが、自らも身体を回転させて鳴滝の拘束から逃れつつ、彼の右足へと蹴りを打ち込んだ。
衝撃に膝から崩れ落ちるかと思われた鳴滝だったが、彼はその体重移動を利用して引き寄せた平手友梨奈の襟首を締め上げた。
「憶えておけ。本物の殺し屋ってのは、道具なんて持ち歩かない」
掴まれた左手を背中へと回され、動きを封じられた平手友梨奈の背後から鳴滝が低い声で囁いた。
「現場にある物で遂行するんだ。その方が足がつかないからな。だが、究極の殺し屋ってのは……」
そこまで語った鳴滝は、左手の人差し指と中指を彼女の喉元へと当てた。
「己自身が凶器だ」
平手友梨奈は目を見開いた。それは彼の言葉によるものではない。背後から伝わる氷のような彼の殺気によるものだった。
「やめなさい!」
川口玲子の甲高い声が響いた。
「何をしているんですか!」
「教育的指導を兼ねた実戦訓練です」
「そんな指導は必要ありません!」
飄々と答えた鳴滝の声に、川口玲子の整った眉が吊り上がった。 「ですよね」
その言葉と共に鳴滝は平手友梨奈の拘束を解いた。だが、彼女は立ち竦んでいた。魂を抜かれたように。
「こんな時間に近所迷惑です!」
「いや、これには事情がありまして……」
頭を掻きながら言い訳を始めた鳴滝に構わず、川口玲子は背後に控えていた尾関梨香からバケツを受け取り、足元で気を失っている男達へとその中の水をぶちまけていた。
「ここで何をしているんですか!不法侵入です。警察を呼びますよ」
奇声を上げて目を覚ました男達へと、川口玲子の喝が飛んだ。
「ちっと待てって!おいたちも訳がわからんと。もう来んけん、直ぐ帰るけん」
そう言って慌てて立ち上がった親玉の男の前で、鳴滝は拾い上げたダガーナイフを手に不敵な笑みを浮かべた。
「オプションで銃刀法違反も付けてやろうか?」
「それはおいたちのもんやなか!違うて!」
「じゃあ、あの包丁は誰のだよ?」
「ごめんて!見逃してくれ」
手を合わせて懇願しながら通りへと出た親玉の男に続き、短髪の男も逃げるように後に続いた。まだ気を失ったままの金髪の男を抱き抱えるようにして、男三人は去って行った。
「なんだか……疲れたな」
その後ろ姿を見ながら鳴滝が呟いた。
「お話しする事はまだありますが、今夜はこれでお休み下さい。お風呂も準備してありますから」
先程の般若のような顔から一転し、川口玲子は穏やかな声でそう鳴滝へと勧めた。
「しかし……」
振り返って平手友梨奈と長濱ねるを見た鳴滝が訝しげに言葉を切った。
「この子達は、もう逃げも隠れも致しません」 「逃げ隠れはしないでしょうが、襲って来られるのは御免です」
その鳴滝の視線は、立ち尽くす平手友梨奈へと向けられていた。
「あれは……サプライズだから……」
「いや、あれはサプライズとは言わない。トラップって呼ぶんだよ」
鳴滝の視線に俯いた平手友梨奈へと、鳴滝のツッコミが入る。
「どっちだって同じだよ」
「本物のナイフ使ったサプライズは、もう殺人未遂と変わらない」
「僕は……殺し屋なんかじゃない」
その平手友梨奈の言葉が沈黙を呼んだ。晩秋の冷たい風がその場にいる者達の高揚を下げながら吹き抜けて行く。
「何処で誰に訓練されたんだ? 」
鳴滝が不意に問いかけた。
「僕が……父親と呼んでいた男だよ」
「父親?」
そこで鳴滝は説明を求めるように川口玲子へと視線を向けた。だが、彼女は目を閉じて沈黙を貫くのみだった。 アメブロも合わせての更新乙です
てちこ登場にドキドキです
最近欅坂板でのお絵描きのモチベが下がり気味でしてなかなか貢献できずすまんです
ひらがなちゃんの番組が始まってもあまり変わらないようなら引っ越しも考えております(笑) >>268
チワンさんのイラストのファンの私としては
チワンさんが引っ越してしまうのは寂しいので
がなちゃん達には頑張ってもらわないと(´ー`) 沈黙する玲子に代わり平手友梨奈が口を開こうとしたその時、彼女の頭を鳴滝の手の平がそっと押さえ込んだ。
「本当に辛かった事は、そう簡単に誰かに話せるものじゃない。だから、今は無理をするな。話したくなった時に聞かせてくれ。ただし……」
そう言った鳴滝は、平手友梨奈の両肩を掴んで彼女の顔を覗き込んだ。
「これだけは信じてくれ。俺は君達を守るためにここまで来たんだ。どんな奴が相手だろうと、俺がぶっ飛ばしてやる」
「僕は一人でも……」
彼の言葉に反論しようとした平手友梨奈の頬を、鳴滝は両手で押さえ込んでいた。
「一人きりじゃ、大人にはなれないんだよ。自分以外の誰かとの関わりの中でしか、人は成長出来ないんだ」
目を丸くした平手友梨奈を見て、鳴滝はやっといつもの彼らしい悪戯な笑みを浮かべた。
「ガキはガキらしく、大人に甘えておけ」
「僕はガキじゃない!」
鳴滝の手を振りほどき、平手友梨奈が叫ぶ。
その彼女の前で、鳴滝は腕を組んで尚も笑みを浮かべていた。
「俺に勝てたら、ガキじゃないと認めてやる」
挑発するかのような彼の言葉に、平手友梨奈が再び身構えた時、その横を尾関梨香がつかつかと鳴滝の前へと進み出たと思われた瞬間、鳴滝は膝から崩れ落ちていた。
「これ以上、話しをややこしくしないで下さい!」
「お前、自分が馬鹿力だと、いい加減に自覚しろ!」
鳴滝を沈めたのは、尾関梨香の得意技である渾身のローキックだった。 「高校生相手に大人気なく挑発するような人間に、手加減する必要は無いと思いますけど?」
「力加減も出来ない女に諭されているかと思うと、なんだか悲しくなって来るよ」
「自分だって、女子高生相手に本気出してたじゃないですか」
「本気?あれが俺の本気だと思ったのか?ちゃんちゃら可笑しいぜ。ぺったんこ狸君」
「ぺったんこ狸?何ですか、それ?」
そこで尾関は眉を顰めて首を傾げた。
「自分の胸に手を当てて、よく考えてみろ」
鳴滝のその言葉を受けて、尾関梨香は素直に自らの左手を胸へと当てた。
「それが全ての答えだよ。ぺったんこ狸君」
シャーロック・ホームズを気取りつつ、尾関梨香をワトソン君に見立てた鳴滝が、その右手の人差し指を立てていた。
「おりゃ!」
気合いの声と共に、尾関のローキックが再び炸裂したのはその直後だった。
「てめぇ!同じ所に何度も蹴りいれんな!」
そう叫んだ鳴滝は、既に左脚を押さえて崩れ落ちていた。
「セクハラおやじへの正当な制裁です」
鳴滝の前で仁王立ちした尾関が腕を組んで言い放つ。
「探偵が事実を伝えて何が悪い」
「真実は違います。私は着痩せするタイプなんです!」
腰に両手を当てて胸を張った尾関を、鳴滝は寂しげな表情で見上げた。
「うん……まぁ……そう言う事にしておこう」 「何ですか?その哀れむような目は?」
膝を着いて踞る鳴滝を上から目線で尾関が煽る。それでも尚、鳴滝は哀し気に尾関を見上げていた。
「言いたい事があるなら、はっきり言ったらどうですか?」
その彼の煮え切らない態度に、堪らず尾関が答えを急かした。
「ロッククライマーでも躊躇しそうな断崖絶壁だなぁ……と、そう思っただけさ」
「せいっ!」
鳴滝が語り終わる前に、尾関の気合いの声が重なった。再び繰り出されるであろう彼女の蹴りに、両腕を交差して身構えた鳴滝の予想を裏切り、尾関が繰り出したのは頭上から振り下ろされた鉄拳だった。
「いっ!……」
言葉にならない声と共に、彼は頭を抑えて完全に崩れ落ちていた。
「もう、それぐらいにして下さい」
その二人の攻防を、呆れた声で川口玲子が止めに入った。
「鳴滝さんは不謹慎過ぎます。いくら部下とは言え、体型をどうこう指摘するのは女性に対して余りにも失礼です」
「おっしゃる通りです。以後、慎みます」
玲子の正論に、抗う言葉を今の鳴滝には見出せなかったようだ。
「尾関さんも、暴力に訴えるのは謹んで下さい。自らを女性と主張するのであれば」
「すいません……」
尾関梨香も返す言葉もなく目を伏せた。
その一連の流れを、平手友梨奈はただ沈黙と共に見守っていた。彼女をそうさせていたのは、あるひとつの疑問からだった。
玄関から中へと入った川口玲子に続き、長濱ねると鳴滝が後を追う。
その鳴滝に続き歩き出した尾関の肩を、平手友梨奈が背後から引き留めた。 「ちょっと……いいかな?」
自らの疑問の答えを得るべく、平手友梨奈は控えめに尾関へとそう問いかけていた。
「どうしたの」
自らの上司たる鳴滝の命を狙い、彼にも引けを取らない体術を持つ平手友梨奈の声に、尾関梨香は戸惑いながらも何とかそう答えていた。
「何故?」
「何故って、何が?」
彼女の意図が読めず、尾関は素直にそう問い返していた。
「何故、君の蹴りはあの人を倒せるの?」
「そんな事聞かれも……ただ思い切り蹴ってるだけだから」
「怖くないの?」
「何が?」
「あの人が」
「大丈夫だよ。だって鳴さん、女子供には手を挙げない人だし。だから、こっちはやりたい放題!」
そう言った尾関は、ついついいつもの調子で親指を立てた右拳を突き出していた。
「でも……さっきは僕を抑えつけたよ」
「あれは私もびっくりしたな。初めて見たかも。でもさ……」
尾関は笑顔を浮かべた。自分でも何故だか分からない。ただ、笑顔が湧き上がって来たのだ。
「それって友梨奈ちゃんの事、子供とは見てないって事じゃない?ちゃんと一人前と認めてるんだと思う」
「そうかな……」
「きっとそうだよ。でなきゃ、本気で向き合ったりしないよ」
俯くように目を伏せた平手友梨奈に、尾関は励ますかのようにそんな言葉を投げかけていた。
「本気で……向き合う?」
「そう。あの人ってさ、口は悪いけど根は優しいんだよね。それだけに不器用って言うか……何て言ったらいいんだろう?素直じゃないって言うか……」
「何となく……分かった」
困り顔の尾関へと、平手友梨奈が初めて笑顔を見せた。その彼女の笑顔に、尾関梨香も笑顔で応える。
「正直に言うとさ、友梨奈ちゃんが羨ましいよ……。私は何も出来なくて……格好悪いよね」 >>275
そんな時を耐えてこそ、本当の物語が生まれて来るんでしょうね
作家は天職でないと勤まらない
つくづくそう思いますな
ところで、ずっと気になってたのですが、タイトルの『欅坂の道化師』にはどんな思い込められているのでしょうか
包み隠したようでありながら、とても素敵なタイトルですので、気になります >>276
ありがとうございますm(_ _)m
物語りを書く人間にありがちな「これでいいの?」的な底無し沼にはまりかけてます。ラストまで知っている書き手だからこそ陥る罠なんですが。
「欅坂の道化師」の意味は、すっかり存在感をなくした守屋エージェンシーの立花涼介が解き明かしてくれます。それまでのんびりとお待ち下さい。 「格好悪くなんかないよ。あの人を追い込めるんだから」
今度は平手友梨奈が尾関梨香を励ます側に廻っていた。
「私には手加減してるからね」
尾関の笑顔は、いつしか苦笑いへと変わっていた。
「僕はそうは思わないな」
真剣な顔付きで平手友梨奈が言った。その表情に、尾関も自然と真顔になっていた。
「どう言うこと?」
「あの人……ただの格闘技の経験者ってだけじゃないよね?」
平手友梨奈の問い掛けに、尾関梨香は声を詰まらせた。目の前に立つ彼女の瞳を見つめたまま沈黙するしかなかった。
答えようにも知らないのだ。鳴滝の過去を。
「自慢する訳じゃないけれど、僕だってそれなりに訓練はして来た。それでも、あの人には敵わなかった」
「それは、ほら、同じ探偵でも鳴さんの場合は厄介な案件ばかりに首を突っ込む人だから」
苦し紛れに何とかそう答えたものの、尾関自身もよく分からない答えだと感じて、その戸惑いから視線を平手友梨奈から庭の花壇へと向けていた。
「そうだよね。型にはまった動きじゃないから、実戦で鍛えて来たんだと思う。だからこそ……」
何かを言いかけて沈黙した平手友梨奈に、尾関梨香は無意識に彼女へと視線を戻していた。
「尾関さんの打撃を防げないのが見ていて不思議だった。何故だろう?って……」
尾関梨香の視線に応えるように、平手友梨奈が語り出した。
「きっと尾関さんの打撃は、あの人でも予測出来ないんじゃないかな?」
「いやいや、ただ本気を出す程の相手じゃないからだよ。弱い者イジメはしない人だから」
平手友梨奈の推測に、照れ隠しではなく本気で尾関は困り果てていた。そこまで深く考た事など無く、本能の赴くままにローキックを繰り出していたのだから。 >>278
モチべ低下の中ご苦労様でありますm(__)m >>279
保守ありがとうございますm(_ _)m
絶不調でございます…… 「尾関さんは弱くない」
あの鳴滝に対し、強さにおいては及ばずとも遠からず。そんな平手友梨奈のその言葉に、尾関梨香は彼女の目を見つめて硬直していた。
「だって……あの人が認めて側に置いている人なんだから」
続けて語られた平手友梨奈の言葉に、尾関はますます動揺していた。
「認められてなんかいないよ。あの人、私の事を狸だって言ってるし。聞いてたでしょ?」
「狸は化ける。あの人はそう言いたいだけなんだと思う」
動揺にあたふたする尾関梨香を鎮めたのは、平手友梨奈のその一言だった。
「化ける?」
自分より年下の平手友梨奈の大人びたその言葉に、尾関梨香は即座にそう問い返していた。
「尾関さんの可能性。あの人はそれを誰よりも知っているのかも」
「そんな大袈裟な。鳴さんは、そこまで繊細じゃないから」
度重なる動揺からようやく自分を取り戻しかけた尾関が、上から目線で平手友梨奈へそうと言い放った。
「繊細だからこそ、素直になれないんじゃないかな?」
すぐさま返された彼女の言葉に、尾関は目を見開いた。
そんな事は尾関自身もよく分かっている。だが、それをこの短時間で見抜いた平手友梨奈と言う少女の感受性の強さと存在感に、尾関は自身を失いかけていた。
とても敵いっこない。自分より年下の彼女だが、きっと自分の想像も出来ない程の修羅場を見てきたのだろう。その想いが強くなればなる程、何故だが鳴滝が遠い存在になって行く気がして尾関は目を伏せて俯いていた。
「尾関さんが羨ましいよ」
不意に投げかけられた平手友梨奈の言葉に、尾関は無言で彼女の顔を見た。
「もう少し早くあの人に会えてたら、僕も変われたかもしれないな」
「何言ってるの?友梨奈ちゃんはまだまだこれからじゃない」
彼女の意図を理解出来ぬまま、尾関は即座にそう言い返していた。 「そうかな……未来が見えないんだ……僕には……」
その彼女の言葉に返す言葉が見つからず、尾関も黙り込んだ時、川口邸の玄関のドアが勢い良く開かれた。
「なんだ。狸とカワウソが喧嘩しているのかと思ったら、お前達だったのか」
そこに玄関から顔を出したのは鳴滝だった。
「カワウソって……」
「ちょろちょろとすばしっこいところとか似てないか?あと、顔もそれっぽいだろ?」
呆れ顔の尾関へと、隣に立つ平手友梨奈を指差しながら鳴滝が呟いた。
「失礼ですよ!」
「仕方ないだろ。俺は繊細な男だから」
「ひょっとして……話しを聞いてたんですか?」
そう言って尾関梨香は眉間に皺を寄せた。
「色気の無いガールズトークだったな」
「最低……」
「文句は中で聞くから、さっさと中へ入れ。風邪ひいちまうぞ」
鳴滝の進言にも女二人は彼の顔を見つめたまま動こうとしなかった。だが、その瞳の奥に秘めた思いはそれぞれに違っていた。
「あのなぁ……」
今度は鳴滝が呆れ顔で一歩外へと踏み出した。
「どんな金持ちでも過去には戻れない。
お前と俺とで積み重ねて来た時間を奪う事は出来ないんだ。それとも、簡単に超えられる程の薄っぺらい関係だったのか?」
尾関へとそう語った鳴滝は、その目を平手友梨奈へと向けた。
「未来なんて見えなくて当たり前だ。だからこそ希望って言葉があるんだ。それに、出逢いに早いも遅いもないんだ。変えられない過去に拘るより、変えていける未来を信じて馬鹿やってる方が、よっぽど楽しいぜ。だろ?」
僅かに平手友梨奈の顔に笑みを確認した鳴滝は、再びひとり玄関の中へと入った。
「分かったらさっさと入れ。小動物コンビ」
それだけ言い残し、彼は奥の部屋へと姿を消した。 どうも続きが書ける気がしないので、板違いと知りつつ、いつだったかに約束したヤクザ屋さん関係の経験談を書いてみます。
まずは超ライトなものから。
過去に、修羅の国と呼ばれる九州の福岡で仕事をしていた時のお話し。
新規のお客様で、どこからどう見てもヤクザ屋さんだと分かる人がいました。
人相の悪さに加えて、ブランド物のスーツを粋に着こなしたその人は虎キチと言う類いの人間で、阪神タイガースが試合で負けた翌日は頗る機嫌が悪い人だったのは記憶しています。
まぁ、それは可愛い部類に入りますが、ある日、訪問した最中に彼の携帯に電話がかかって来ました。
「はぁ?自殺した?」
彼の衝撃的な返答に、私は直ぐにでも帰りたかったんです。でも動けない。
「馬鹿野郎!鑑識が来るまで中に入るな、ボケ!」
鑑識?え?どう言うこと?
唖然とする私に、彼がやっと自分の身分を明かしてくれました。
「ワシ、京都府警のモンや。詐欺師追っかけてここまで来たんや」
おいおい……どっちがヤクザ屋さんが見分けつきませんって……。まぁ、確かにそのマンションはウィークリーだったので、違和感は感じてましたけどね。
「怪しい奴おったら連絡してや」
そんな事言われても……。
怪しい奴なら幾らでも知ってはいましたが、それでもお客様。人命に関わる証拠を出せない限り、そうそう簡単に情報を提供なんて出来ません。
いわゆるオレオレ詐欺の元締めのヤクザ屋さんを追いかけて、福岡まで来ていたらしいです。大変な仕事ですよね。警察って。 これも福岡での経験談。
私のいた業界では、ヤクザマンションと呼ばれる物件がありました。
とにかくヤクザ屋さん入居率が高いマンションがあったのです。
そのマンションの一室に居を構えるヤクザ屋さんが私の顧客だった時がありました。
「なぁ?このシミ落ちるかいな?」
ある日、そのヤクザ屋さんが私にブルゾンの袖口についた食べこぼしであろう茶色いシミを見せて来ました。
「さぁ……どうでしょう?」
そう答えつつ、私は呆然としていました。
何故なら、そのブルゾンを差し出したヤクザ屋さんのスウェットが、血まみれだったからです。
彼自身は怪我などしていない様子だったので、その血はおそらくは返り血。
「この服、気に入っとるとやけど」
「クリーニング屋さんに相談された方が良いかと……」
「それもそうやな」
床に敷かれた虎の皮製の敷物の上で頷くヤクザ屋さん。
それから一ヶ月以上、連絡が取れなくなりました。留守電にメッセージを残すも、返答無し。
ついに殺られたか……そう思っていた時、ヤクザ屋さんから連絡が来ました。
「おいは何もしとらんとに、サツが……」
要約すると、この一ヶ月以上は鉄格子の中にいたそうです。
いやいや……あれだけの返り血を浴びるって、傷害事件起こしてるやろ……。
意味がわからない。血まみれなのに、袖口の小さなシミが気になるなるなんて……。
不思議な人達ですよね。ヤクザ屋さんって。 これもまたまた福岡でのお話し。やはり福岡は修羅の国。
ある年の師走。お得意様から、アルバイトの話しを持ち掛けられました。二時間で一万円。仕事内容は大掃除。
特にその日曜日に予定も無かったので、のほほんと承諾。
迎えにに来たお得意様の車に乗り、連れて行かれたのは監視カメラだらけの建物。
その建物の玄関前に立つヤバそうな人に、お得意様が一礼。
「こいつはうちに入った若い衆です」
は?と思いつつ、私も頭を下げました。
対するヤバそうな人は何か言っていましたが、それは憶えていません。
その後、建物の中に入ると、もっとヤバそうな連中がうじゃうじゃ。
うん。ここって組事務所だよね。そう気付いた私でしたが、事実はその上を行っていました。菱形のマークで有名なあのヤクザ屋さんの福岡における本拠地だっだのです。
そりゃあ、ヤバそうな奴がいたって当たり前。後悔先に立たず。取り敢えず、隅に置いてあったパーテーションの後ろに隠れましたとも。なるべく関わりたくない……。
次々に入って来る親分と、その度に一斉に頭を下げる他の組の若い衆。
最悪なシチュエーション。そして更に最悪な事に、若頭らしき人に発見される私。
「そん所で何しとるんや?」
その一言と共に、若い衆の最前列へと引き出される私。
今現在はどうかは知りませんが、当時は若い衆はジャージやスゥウエットの様な服しか許されていなかったらしく、それなりの地位にいる人間しかスーツを着れないそうで……。その時の私は、ジーンズにブルゾン(MA1)……ヤバい……。
最前列で取り敢えず頭を下げながら、どうしたものかとお得意様に視線を向けると、奥の応接用のソファーで踏ん反り返るお客様。
騙された……そう思うも、既に後の祭り。
ならば楽しもう。なかなか経験出来ない事ですしね。そう開き直って、成り行きに任せていると、小さな親分が入って来ました。
私は背の高い方ではないのですが、その私よりも背が低い。そのヤクザ屋さんが、若い衆を引き連れてご登場。
その親分さんは、いわゆる経済ヤクザ屋さんと言われる人で、商売をしながら凌ぎを上げる人らしく、それなりに有名な人だと隣の若い衆が教えてくれました。 「だから、何?」
反抗しつつも、それを言葉に出来ない小心者の私はただ流れに身を任せるのみ。45度の最敬礼で親分衆を迎えつつ、逃げ場所を探す私。まさにカオス。
そして始まる大掃除。私は逃げるように二階にある広間へと逃げ込みました。しかし、それが大失敗。
縦長の窓を拭いていると、入り口からドスの効いた怒声。
「きさん!(貴様)」
その声に我に返って、私が見下ろした足元には、あの菱形のマーク。
終わった……グッバイ、俺の人生…… 。
その私の予想を遥か斜め上から、叱咤する声が……。
「この靴は、誰のもんや!」
その彼の手にした靴を見て、私は銷沈。
俺の靴やん……。
覚悟を決めた私に、ヤクザ屋さんの意外な一言が。
「俺と同じ靴やんか!」
いやいやいや……そんな事で怒鳴るなよ……。諦めから悟りを開いた私は、
「俺のです……」
咄嗟にそう答えてしまいました。
「こいつは安かばってん、軽くて良かとよ」
確かにね。履きこごちは良いけどさ……。
そんな事でいちいち怒鳴る事かよ……。
あの人達の価値観は、ちょっと違う。
それでも、そこからただひとつ分かった事は、自分達がヤクザ屋さんと一括りにする世界でも、違うものは違う。 いやいや、面白い…て言うたら不謹慎かも知れへんけど、スベらない話にも参加できそうなクオリティですやん←みぃちゃんに怒られるエセ関西弁 >>290
保守ありがとうございます!
私も迷走してます。 そして島に来てから二日目の夜が明けた。
いつもより早起きした鳴滝は、縁側に座り、足元に生えたクローバーを見つめていた。
「おはようございます。何してるんですか?」
少し寝ぼけ眼の尾関梨香が、黄色のパジャマ姿でのそのそと現れた。
「命の洗濯だよ」
「朝から何言ってるんですか」
そう言いつつ、彼女も鳴滝に並んで縁側に座る。晩秋の冷たい空気が、眠気を覚ますのにはちょうど良い。
見上げた空は、ムラなく塗り込められた折り紙のように、雲ひとつ無い青一色だった。
「なぁ、尾関……」
空を見上げる尾関梨香とは対照的に、視線を下に向けままの鳴滝が彼女へと問いかけた。
「何ですか?」
「世の中のクローバーが全部四つ葉になったら、人はどうするんだろうな」
「五つ葉のクローバーを探すんじゃないですか」
興味無さげにそう言った後、尾関はあくびをして目を擦った。
「きりが無いな。幸せ探しってやつは」
「何でそんなにセンチメンタルになってるんですか?」
鳴滝の意外な言葉に、尾関は怪訝そうに彼の横顔を見た。
「俺だって、たまにはセンチになるさ」
「似合いませんから。てか、センチなおじさん程、面倒くさいものはないですよ」
まだ完全に眠気が消えていない尾関は、ついつい本音を漏らしていた。
「お前、たった今、世の中の全おじさんを敵に回したぞ」
「誰も聞いてませんて。アイドルの生放送じゃあるまいし」
「まぁな……アイドルならともかく、お前じゃな……」
「なんか、今、カチンと来たんですけど」 「気にするな。世間一般論だ」
してやったり顔の鳴滝が、尾関梨香へと飄々と言い放つ。
「どこの世間の一般論ですか?」
不満を露わにした尾関は追求の手を緩めない。
「帝国データバンク調べだ」
「そんな下らないデータを集めるような企業じゃありませんから」
やっと尾関はいつもの調子を取り戻し始めていた。
「そんな事より……お前、少し痩せたんじゃないか?」
「えっ?そうかな?」
鳴滝の想定外の問いかけに、尾関は自らの腰に両手を当てていた。
「勿論、社交辞令だけどな」
「そう言うと思ってましたよ。本当に馬鹿のひとつ憶えって奴ですよね」
「成長したな……ぺったんこ……」
弟子の成長に泪ぐむ師匠のように、遠い目をした鳴滝が呟いた。そこに狸と言う言葉は消えていた。
「ぺったんこは辞めてください!まだ、狸の方が幾らかマシです!」
「了解だ。狸くん」
不毛な争いながら、勝利を確信した鳴滝が上から目線で言い放った。
「面白い……」
その時、二人の背後からそんな呟きが聞こえた。振り返ると、そこに立っていたのは既にあの赤いジャケットを羽織った平手友梨奈だった。
「おはよう……少しは眠れたか?」
「いつもよりは……」
「そっか……」
自らの問いに答えた平手友梨奈の言葉に、鳴滝は寂し気な表情と共にそう返していた。
「少し歩きませんか?」
「おっ!いいね。行くか」
彼女の予想外の提案が余程嬉しかったのか、鳴滝は直ぐに立ち上がって背伸びをしていた。
「じゃあ、私も……」
そう言って立とうとした尾関の肩を、鳴滝が右手で押さえ込んだ。
「野暮だな。少しは気を遣え」 その鳴滝の声は戯けていたが、尾関梨香が見上げた彼の瞳は真剣そのものだった。
「まるで散歩の時間になった飼い犬みたいですね」
以心伝心。この時ばかりは、尾関梨香にも鳴滝の瞳の奥の意図が読み取れた。それだけに、彼女は彼女なりの精一杯の嫌味で彼へとそう言い返していた。
「ワンワン」
尚も戯けつつ、鳴滝は尾関の頭をぐいと強く掴んで、平手友梨奈と共に玄関へと消えて行った。
「やはり、貴女しかいないのね」
その意味不明な言葉に尾関が振り返ると、そこには川口玲子の姿があった。
「どう言う意味ですか?」
「貴女なら、定められた彼の宿命さえ変えてしまうかもしれない」
尾関の問いに、即座に玲子が答えを返す。
「宿命?……」
それでも理解出来ない尾関は首を傾げる。
「鳴滝さんにとっての四つ葉のクローバーは、尾関さん、貴女だと言うことです」
「クローバー……私、雑草ですか?」
「雑草魂。それも捨てたものではなくってよ」
まるで意味を理解していない尾関に対し、川口玲子は苦笑いでそう応えた。
「さぁ、鳴滝さん達が帰って来るまでに朝食の準備を終わらせましょう」
そう言った玲子は、未だに戸惑う尾関へと背を向けた。
「私もお手伝いします!」
「では先に着替えて下さい。パジャマ姿で作るお料理は、味が落ちます」
厳し目に言い放たれた玲子の言葉に、すっかり目を覚まされた尾関は背筋を伸ばして直立していた。 俺も昔、ベンツに当て逃げしようとして事務所に連れてかれたんですけど
「素人だ許してやれ」とか言って助けてくれた若頭補佐の人が頭にめっちゃ分かりやすいヅラ乗っけてて・・・
助けてもらっときながら、頭に乗っけちゃうような器量じゃ補佐で終わる人なんだろうなと思いましたね
ニャンコ先生の小咄読んでそんなことを思い出しましたm(__)m 相変わらず絵で貢献できなくて申し訳ないです
今日は今日で高畑勲監督の訃報を受けてこんなの描いてるし
http://o.5ch.net/14adh.png >>296
いえいえ。保守に協力して頂けるだけでありがたいですm(_ _)m
しかし……どんどん上達してますね!
びっくりしました。
高畑監督が亡くなられたのはとても残念ですが、彼の子供である作品は残り続けるので、その意味では本当に幸せな人だと思います。 真面目に小説書くのは、やはり板違いなのかと思いつつ続きを投下。
私はアイドルオタには向いてないのかも。 やわらかな暖かさを含んだ朝日を横顔に受けながら、鳴滝慎吾と平手友梨奈は肩を並べて歩いていた。
どことなく昭和の匂いのする民家の間の小道を共に歩きつつ、鳴滝は平手友梨奈の言葉を待っていた。
だが、彼女は昔を懐かしむかのように周囲の景色へと目を向けながら無言で歩みを進めているだけだ。
その二人の前を、一匹の黒猫が時折こちらの様子を覗い見ながら、しゃなりしゃなりと道の脇を通り過ぎて行った。
それは、ごくありふれた日常の風景。
通り過ぎる車のエンジン音。遠くから聞こえて来る犬の鳴き声。何処かの店が開店を知らせるシャッター音。
静寂とはかけ離れてはいるが、それさえも穏やかな日常の証しなのだ。
そのゆっくりと流れる穏やかな時間に、この島に初めて訪れたにも関わらず、いつしか鳴滝もいつか見た過去の風景を懐かしむ様な穏やかな顔になっていた。
「ねぇ……」
彼の意識を過去から呼び戻したのは平手友梨奈の呼びかけだった。
「ん?」
彼女の問いかけの本題を促す様に、鳴滝はそれだけ言って平手友梨奈へと顔を向けた。しかし、彼女はやはり少し俯きながらではあるが、真っ直ぐに前だけを見て歩いていた。
「探偵さんのお父さんって、どんな人だった?」
名前ではなく探偵さんと呼ばれた事に少し寂しさをを憶えつつ、鳴滝は胸の前で大袈裟に両腕を組んで見せた。
「さぁ、どんな人なんだろうな」
戯けた声ながら、どこか寂し気に言い放たれた彼の言葉で、平手友梨奈はやっと鳴滝の顔へと目を向けた。
「実はさ、俺は父親どころか、母親の顔さえ知らないんだ」
あっけらかんと語られた鳴滝の告白に、平手友梨奈は返す言葉が見つからず、再び前を見て黙り込んでいた。
「物心ついた時には施設にいて、親はいなかったけれど兄弟はいて……いや、もちろん血の繋がりはないんだけどさ」 「ごめんなさい……」
それまでの大人びた表情から、歳相応な女の子らしい表情へと戻った友梨奈の口から、囁やく様なその言葉が漏れ出ていた。
「謝られると余計に辛いぞ。それは君が一番よく分かっているはずだろう?」
戯けた声から一転し、諭す様な声に変わった鳴滝の表情に、友梨奈はただ彼の目を見つめ返すので精一杯だった。
「この事は、尾関には内緒にしておいてくれ。あいつは……ほら……人一倍感受性が強いと言うか、直ぐ情に流されると言うか……とにかく面倒くさい奴なんだ」
平手友梨奈の戸惑いを察したのだろう。鳴滝はいつもの彼らしく、飄々と語り出していた。
「うん。分かってる」
「だろ?面倒くさいんだよ……同情されるのは」
「それは違うと思う」
尚も飄々と語る鳴滝に、平手友梨奈は凛とした表情で向き直った。
「尾関さんは……本当に優しい人なんだと思う」
続けて語られた平手友梨奈の言葉に、鳴滝は立ち止まって彼女を見据えた。
「だからこそ……だろ?」
「だからこそ……だよ」
語尾の一文字を変えたのみの平手友梨奈の返答だったが、鳴滝の思考を止めるのにはそれで充分だった。
「だからこそ、曝け出してもいいんじゃないかな?自分の事……。でも、それを一番分かっているのは探偵さんでしょ?」
鳴滝の止まった思考を再び動かしたのも、やはり平手友梨奈の言葉であった。
「負けたよ……君にはお手上げだ」
「これで一勝一敗だね」
そこで、やっと平手友梨奈が笑みを浮かべた。 「はぁん?引き分けになっただけだろ。次は俺が勝つ。ひれ伏せ!」
川口邸の縁側での尾関梨香と同じく、両手を腰に当てた鳴滝が踏ん反り返る。
「高校生相手に本気を出してる時点でどうかと思うけど……」
その鳴滝に、控えめながらも平手友梨奈が本音を吐き出していた。
「勝負に社会人も高校生も関係ない。弱肉強食が世の常だ!」
本気なのか冗談なのかわからないテンションで、鳴滝は尚も目の前の女子高生に自信満々に言い捨てた。
「悪いけど……僕は、まだ本気出してないから」
「じゃあ、見せてもらおうか。君の本気ってやつを……」
それまでとは明らかに違う真顔になった鳴滝の言葉に、平手友梨奈は即座に身構えていた。
再び一触即発の雰囲気が訪れるかと思われたが、それを阻止したのは他ならぬ鳴滝の笑顔だった。
「不思議なもんだな。億単位で人間がいるこの世界で、同じ境遇にいた俺達がこんな島国の、さらに辺境のこの島で一緒に歩いているんだからさ」
「全然、不思議じゃないよ。玲子さん風に言えば、宿命。と言うより、神様の御導きってやつなのかな……」
その時、港の方角から出航を知らせるフェリーの汽笛が響いて来た。その音こそが港町の港たる所以なのだと平手友梨奈が再認識している最中、彼の声が聞こえて来た。
「神様……ひょっとして君もクリスチャンなのか?」
「うん。僕のいた慈愛院を運営していたのがカトリックの団体だったから」
「じゃあ洗礼名は?ちなみに俺はヨハネ。黙示録を書いたあのヨハネだ」
「僕はジャンヌ」
「ジャンヌって、あのジャンヌ・ダルクか?」
「そうだよ。珍しいでしょ?」
自慢気に語る平手友梨奈に、鳴滝は困惑した表情で目を細めていた。
「君はジャンヌ・ダルクの最後を知っているのか?」 アメブロもスピンオフなども交えながら更新乙です
いよいよ『ひらがな推し』、始まりましたね
でも録画して満足してまだ見てないという(笑)
なんか溜まりそうな予感(笑)
という保守 続きを書いていたら寝落ちしてました……
ひらがなちゃん達の番組はYouTubeで観ましたよ。
MCのオードリーも最初だったので、探り探りやっている雰囲気がありましたが、面白かったです。チワンさん残留決定ですねww 「ジャンヌ・ダルクは異端の罪で火炙りの刑になったんだよね。それぐらいは僕だって知ってるよ」
鳴滝の問いかけに、平手友梨奈は即座にそう答えを返した。
「その通りだ。では、その罪状は何だったか知ってるか?」
「さぁ。異端は異端でしょ?」
続けられた彼の問いに、平手友梨奈は首を傾げた。
「罪状はいくつかあったが、そのうちのひとつは男装の罪なんだ。信じられるか?男物の服を着たから。ただ、それだけの事だぜ」
「今の世の中じゃ考えられないよね」
いつしか鳴滝の話しに引き込まれていた平手友梨奈は、当たり前の様に彼に同意していた。
「実は今でもそれほど変わってないんだ。昔さ、神父達の会合に出くわした事があって、その話しを聞いてたんだが、そりゃあ酷かった」
「どんな風に?」
「当時、東アジアのある国がハリケーンで甚大な被害を受けた年があって、被害者が救援を求めていた。それを知った若い神父が彼等の為に街角で募金活動を始めたんだ。でも、他の地位の高い神父達は激怒したんだ。勝手な事をするなって」
「どうして?若い神父さんは間違ってないよね?」
「面子さ。お偉いさんの意に反した事をしたってだけで、その若い神父は潰された。実にくだらない。その時、俺は……神を捨てた」
真剣な面持ちで語る鳴滝に、平手友梨奈は返す言葉が見つからずに俯いた。 「ジャンヌ・ダルクは英雄じゃない。犠牲者なんだ。君はくだらない常識の犠牲者になるなよ。きっと君の姉さん達だって、そんな事は望んでいないと思うぞ」
その鳴滝の言葉へ平手友梨奈が言葉を返す代わりに、遠くから汽笛が再び鳴り響いた。
「結婚する時は教会の神父の前で永遠の愛を誓い、葬式の時はお寺の坊さんの前で冥福を祈る……」
汽笛がなり終わるのを待っていたかの様に、鳴滝が脈絡もなく語り出した。
「世の中そんなもんさ。節操が無い。彼等にとっては教会も寺もファッションの一部でしかないんだ。実にご都合主義な見せかけだけの美しさ。反吐が出そうだ。しかし、それさえも常識だとして疑いもせずに従うお利口さんな自称『常識人』の群れ……笑えて来るよ」
いまひとつその鳴滝の語る意味が理解出来ないままに、平手友梨奈は彼から目を離す事が出来ずにいた。
「俺達には親がいない。でも、それを言い訳にしたくはない……。そうだろ?親は居なくても、君には姉妹の『絆』はあったはずだ。
血の繋がりは無くても、寄り添ってくれる心が……」
「うん。僕には……いるよ……」
「だったら……胸を張って立て。俯くな。常識人ぶった馬鹿な大人達なんか放っておけ。君の人生は君にしか築けない。この世に産まれて来た以上、向き合うしかないんだ。この現実と。でも、それを乗り越えた時に、君が存在している理由がわかるはずだ」
高校生の平手友梨奈には、鳴滝のその言葉は余りにも哲学的で理解するには早過ぎた。しかし、その彼の真剣な眼差しだけは受け入れるに値するものだと感じていた。
「きっと、キリストが今のバチカンを見たら怒り出すと思うぜ」
鳴滝が悪戯な笑みを浮かべて、右手の人差し指を立てた。その仕草がどことなく学校の先生みたいだなと思いつつ、平手友梨奈は彼の声に耳を傾けた。
「豪華な装飾品や財産は全て売り払って、貧しい人々に分け与えなさい!ってさ」
「そうかもしれないね」
それはどうかと思いつつ、平手友梨奈は相槌を打った。
「クリスマスだって大人が馬鹿騒ぎする日じゃない」
「それはいいんじゃない?」
流石にそれには彼女も反論する。
「クリスマスってのは、いつも泣いている子供が笑顔になる。そんな奇跡が起こる日だ。と、俺は……ん?何でこんな話しをしてるんだ?」
そんな鳴滝が妙に可笑しくて、平手友梨奈は満面の笑みを浮かべた。
「いいね。その笑顔。一緒に笑い飛ばしてやろうぜ。このクソッタレな世の中を」
そう言って突き出された鳴滝の拳に、平手友梨奈も自らの拳を重ねていた。 >>307
純朴さと猥褻さが同居する感じが畑中純を彷彿とさせますな 保守ありがとうございます
>>307
本当に誰だろう…… 奇妙な風が吹き抜けた。
その風は、鳴滝慎吾と平手友梨奈が拳を合わせた二人の間を渦を巻きながら、瞬きするよりも早く通り過ぎた。
「伏せろ!」
その正体にいち早く気付いた鳴滝が、平手友梨奈の肩を掴んで地面へと押し付ける。
「狙撃だ」
何事かと目を丸くする平手友梨奈にそれだけ伝えると、鳴滝は道路脇の縁石越しに民家の間の僅かな隙間から遥か彼方へと目を向けた。だが、狙撃者らしき影を見出せない。その時、焦る鳴滝の背後から聞き覚えのある若い女の声がした。
「どいて!」
アスファルトにへばりつく鳴滝と平手の間に、ゴルフのクラブケースを手にした東村芽依が割って入って来た。
「M24……特殊部隊?」
クラブケースを構えた東村の姿に唖然とする鳴滝と平手の間で、狙撃者を見つけたのであろうか。彼女は謎の笑みを浮かべてそんな独り言を呟いた。
よくよく見ると、東村芽依が構えているクラブケースは長身のライフルを偽装したものだった。
「顔を出しなさいよ……」
そのケースの中程から突き出た引き金に指を掛けながら、自らも狙撃者と化した東村芽依が囁く。
「見えるのか?スコープも使わずに」
この状況における違和感を、鳴滝はそのまま口にした。彼が言うように、彼女の手にしているライフルには、狙いを定めるスナイパーライフルには必須のスコープが装着されていなかった。
「私には『見える』の……」
そう答えた芽依の瞳は、既にあの金色へと変化していた。
「なるほど……」
聞き覚えのあるその彼女の言葉に、鳴滝は全てを察して東村芽依が銃口を向ける先へと目を向けた。
「どう言う状況なんだ?」
「幌付きのトラックの荷台から狙ってる」
鳴滝の問いに即座にそう答えた芽依だったが、引き金に指をかけたまま微動だにしない。
「ついに自ら動き出したか……」
「違う……あいつはクロウじゃない」
隣で溜め息に呟やかれた鳴滝の言葉を、芽依が即座に否定した。 「その根拠は?」
「クロウは仲間を持たない。でも、このスナイパーはチームで動いてる。まるで……自衛隊みたい……」
「怖い事言うなよ……」
鳴滝は思わず苦笑いを浮かべていた。
「あとはSAT……かな」
「どっちも御免だ」
鳴滝がボヤくのと同時に乾いた破裂音が響き、銃身から弾き出された薬莢が彼の鼻の先をかすめて飛んで行った。
「仕留めたのか?」
「挨拶しただけ。逃げて行っちゃったけどね」
クラブケースに装着されたバンドを肩に掛け立ち上がった芽依が、あっけらかんと言い放った。
「また助けられたな……しかし、君は何処にでも現れるんだな」
鳴滝も身体についた埃を両手で払いながら立ち上がり、尚も伏せたままの平手友梨奈へと右手を差し伸べた。
「猟犬のピンチだもの。助けるに決まってるじゃない。世話の焼ける仔犬ちゃんもいるしね……」
そう言いつつ、東村芽依は揶揄うような笑みを浮かべて平手友梨奈を見た。
その挑発に、平手友梨奈も獣のような鋭い視線を返す。
「あなたに……何が出来るの?」
尚も挑発を続ける芽依へと向けられた平手友梨奈の瞳が、彼女の前で金色へと変わっていた。
「へぇ……あなたもキャリアなんだ……」
平静を装いつつも、芽依の顔には明らかに動揺の色が現れた。
「心配しなくていいよ。僕は弱い者いじめはしない主義だから」
その芽依の表情に、今度は平手友梨奈の顔に笑みが浮かんでいた。
「弱い者いじめ?随分と自信があるみたいね」
一触即発の雰囲気の中、鳴滝がその間へと割って入った。
「なんでお前ら直ぐに喧嘩腰になるんだよ?カルシウム足りてないだろ?魚を食え、魚を。運良くここは島だ。魚なら幾らでもある。骨ごと食って頭を冷やせ」
呆れ顔の鳴滝に構わず、東村芽依と平手友梨奈は互いの目から視線を外そうとはしなかった。 更新乙です
>>309
wwww
この絵は忘れてください(笑)
ちなみにヒントは書かれてます(笑) >>312
保守ありがとうございます!
>>313
星野みなみだったんですね(笑)
可愛い…… >>314
ヒントは絵に描かれた「いたずら」という文字で、写真集のタイトルです(笑)
これもその中のカットらしい
やっぱり可愛い子や美人を描くのは難し…おや?誰か来たようだ アメブロは短編も含めて(最近はメイン?w)更新乙です
最近はお絵描きの軸足が完全に48G側になっちゃってましてm(_ _)m
今もけやかけけやおしは録画中なんですが、やはり見ない可能性もw >>316
保守ありがとうございますm(_ _)m
ひらがな推しは観てみて下さい。
結構、面白いですよ
欅坂の道化師の更新も頑張りますので >>317
理佐ちゃん至上主義者の俺がひらがな推し見て齊藤京子に惹かれてビンゴを予約してしまった・・・ >>319
ひらがな推しのきょんこにけやかけ卒アル回のただただ睨む理佐ちゃん以来の衝撃を感じてしまったのですm(__)m ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています