「テレビのニュースで、中学生や高校生が自殺したと聞くたびにに思うんだよ……」

続けて語り出した鳴滝のその予想外の言葉に、何事かを言いかけた芽依が口を閉じた。

「逃げ場が無かったんだなってさ。俺達はいつのまにか忘れちまっているが、彼等の世界は家か学校しか無いんだ。クソ狭い世界さ。
親が逃げ道を作ってやれればいいが、その親さえ……」

そこで鳴滝は、やっと冷めた缶コーヒーを開けて口を付けた。

「常識や世間体なんて、くだらねぇプライドの為に子供の選択肢を削っちまう。それが子供の命を削っているなんて知らずにさ」

それまで宙を見ていた鳴滝が、芽依へ、そして史帆へと順に視線を向けた。

「お前ら、自分がガキじゃないと言い張るなら、もっとしたたかにしなやかに生きてみろ。逃げたっていいんだ。何に価値を求めるかは人それぞれだろうが、それだって生きていてさえこそだ。銃を手にしているお前らなら尚更だ」

そう言った鳴滝の視界の中で、芽依がニヤリと笑った。

「ひょっとして……おじ様はいじめられっ子だったの?」

「と、思うだろ?それが違うんだなぁ」

「じゃあ、何なの?」

「いじめっ子をぶん殴る方さ。見ていてムカつくからな」

「格好つけ過ぎ」

「お陰で敵ばかりだった。でもさ、泣いてる奴が笑うのを見ると、それも悪くない。自己満足の偽善者かもしれないが」

「苦っ!」

鳴滝の言葉を芽依が遮った。

「ブラック……あたし、苦手」

手にした缶のラベルを見た芽依がそう呟いた。

「どんな世界も、そのブラックコーヒーと同じさ。その苦味さえ旨いと思えるようになったら、一人前なんだ」

そう言った鳴滝は、揶揄うように笑顔を見せた。