『中1の軍曹』第4話

「そう言えば、茜ちゃんはどうしたの?」
イートインコーナーでクロワッサンをかじっていると、渡辺店長が話しかけてきた。
店の中はゆっくりとしたクラシックが流れている。
「びびって、家にこもってます」
「何にびびってるの?」
「ミサイルで女の子が飛んできたんですよ」
「え?」

店長は顎に手をおいて、深妙な顔をした。
「もしかして、黒い服着てた?」
「はい、でも何でわかるんですか」
「それ、たぶんモナ王国のミサイルだよ」
店長は裏から分厚い資料を取り出してきた。
「まだ私が若かった頃の話だけどね…」

少し昔のこと、店長が「ぺーちゃん」と呼ばれていた頃の話である。
ぺーちゃんは街一番の美人として、神童扱いをされていた。
それがある日のこと、僕が見たミサイルと同じようなものに乗って、一人の少女がやってきた。
後のモナ王国の王女、モナ・シダである。
ここからは店長の話が要領を得ず、よくわからないのだが、どうやら「美」の暴力というものが存在するらしい。
モナは、ぺーちゃんの行き過ぎた「美」を摘み取るために、この街へやって来たそうだ。
ぺーちゃんは小一時間、神隠しに遭った。
意識が戻ると、この街の神童ではなくなっていたらしい。
その後、モナ・シダは国へ帰り、「美」を分け与え、髪型もショートカットが大流行したとか。

「それでも店長は相当美人ですよね」
「そんなことないよ〜」

僕は残りのクロワッサンを口に放り込み、店を出た。
ちょうど、茜ちゃんから電話があった。