米さんはレコーディングのため、出かけていった。
室内に一人取り残され、暇だった。僕は小銭入れを携え、店に向かった。

流石に午後三時から飲んだくれるほど暇では無いのか、庭のおじさんはまだ来ていなかった。
僕はステージに目を向け、自分の目を疑った。
おじさんが、ステージに上がり、設営の準備をしていた。
テキパキと指示を出していた。
深夜の酔っぱらいとは、全く別の人に見える。

「いやぁ、腰が痛い。理佐ちゃんに揉んでほしいものだよ」
おじさんがステージを降りてきた。
「もしかして、毎日手伝っておられたのですか?」
「うん、まあ手伝いというか義務だよね。俺、社長だし」
「社長…あ!もしやあなた、あの正体不明の社長ですか」
「いかにも。ところで今日は君に話したいことがあってね」
「何ですか?」
「愛しの嫁、理佐ちゃんについてだよ」

「その昔、秋元康という人物がいただろ?」
「ああ、AKBとかやってた人ですね」
「俺は生まれ変わりなのさ。かつて彼がアイドルに手を出したように、俺は理佐ちゃんと結ばれた」
「クズ野郎ですね」
「まぁ、聞け。理佐ちゃんは、アイドル概念を変えた、言わばアイドルの革命児なのだよ」
「聞いたことありませんね」
「それもそのはず。彼女はアイドルでありながら、最もアイドルには遠い存在だった

「ん?理佐…あ、あの世界を股にかけるリサワタナベですか!」
「な、知ってるだろ。ポストシャネルの誕生に世界は湧いたものだよ」
「ああ…そうでしたか。とんだ御無礼を」
「なーに構わんよ」

そう言って、庭のおじさんはタブレット端末を取り出した。
スカイプの画面を開き、その大成功者と会話を始めた。
「どうしたの急に?」
「理佐ちゃん、今からそっち行っていいかな。ちょっといい気分なんだ」

おわり