青く高い空を画す巻き雲が、晩秋の微風に幾つもの白い尾を棚引かせていた。
河川敷の公園は澄み渡る秋空から垂れ込む冬の気配でひどく冷えていたので、尾関はベンチコートを脚下まで閉めて寒さに震えている。
そんな様子を見て、齋藤は不意に遠く土手の電信柱を指差して、
「ねえ、尾関、競走しない?あそこの電柱まで」
尾関は驚いた。
「急に何言い出してんの?走ったら髪の毛が乱れるじゃん。もうすぐ私たちの撮影の番だよ」
「いいじゃん。負けた方がスタバ奢りね」
そう言い残して齋藤は駆け出した。
「あ、待ってよ」
尾関もそれに続いて堤の階段を駆け上がる。
「ねえ、待ってってば」
土手道を二人はひた走る。
そのとき追い風が立った。背中を風が押しているのがわかる。浮いているような、空を飛んでいるような、そんな気がした。
電柱の少し手前で齋藤を追い抜いて、柱に手を付ける。
「勝った!私が先に着いたよ!」
「尾関スタイル健在じゃん。私の奢りね。今のうちに頼むもの決めておいてよ。いつもみたいに後ろに人が並んで気まずい思いをしたくないし」
齋藤は息を弾ませながら笑う。
路端の尾花をさらさらと騒がせる木枯らしの風はそのまま二人の背中を吹き過ぎて、遠くの空へ溶けていった。
「そう言えば、ふーちゃん」
尾関は肩を上下させて、
「少し前、永遠が欲しいって言ってたよね。今ね、その気持ち、何だかわかった気がする」
齋藤は柔らかい顔で黙って頷いて、少ししてから、
「そろそろ戻ろうか。またヘアメイクさんに整えてもらわないとね」
二人の頭上を舞う一朶の赤い葉が、間近に冬が迫っていることを知らせていた。