僕は再びステージの方へ向かった。
この間のおじさんが一人でビールを飲んでいた。
僕は近づく。
「すみません、よろしいですか。」
「ああ、この前のお兄ちゃんだね」
「実は、こう云う者でして…」
僕は名刺を渡した。おじさんは酔って目の焦点が合っていない。
「今日のステージどうでしたか?」
「まだまだだね。成長の余地はあるけど。」
「どうすれば売れますかね…」
「あのな、アイドルってそんな簡単なもんじゃねぇんだよ。なんで、近頃のアイドルが大人数編成か分かるか?」
「ダンスをきれいに見せるためですか?」
「ノン、ノン…」
おじさんが人差し指を振った。かなりウザい。
「ファンに可能性を与えるんだよ。人によってな、好みは違うんだよ。だから、もし誰かさんの目に一人の子が引っかかれば、グループ全体の利益になる。」
「じゃあ、多い方がいいんでしょうか」
「ノン、ノン。何事もバランスだよ。人数は自由だが、似た子ばかり集めてもダメなんだ。」
「でも、統一感が失われてしまうのでは?」
「アイドルって、不思議だよな…グループには特定の色があるのに、メンバーは誰一人その色に染まってなかったりするもんなんだよ。君、理佐ちゃんって知ってる?彼女はね…」

つまらない戯言に付き合っている暇はなかった。

「可能性か…」僕はつぶやく。
誰にだって可能性はある。そう彼女たちにだって。
部長と米さんのところへ向かった。


「人生って、わからんもんやね」
米さんがカーテンを開けた。
かつてデスクワークに従事していた彼女は、今や誰もが知っている歌手になっていた。
「今日は?」
「収録、歌番組の。夕方には帰ってくるから」
「あの子たちも一緒?」
「うん、もちろん。みんなでやらなきゃ意味ないから」

パブロックに始まったアイドルグループは、今日もファンたちを熱狂の渦に巻き込むだろう。
彼女たちに幸あれ、Rock you!

おしまい

にしても、ニャンコ先生凄いですね
Rock you を言い当てたなんて