『太陽を持って帰れるだろうか』

金色に染まる稲穂畑に風車の影が長く伸び、回転する度に太陽の光を遮っていた。
夏の終わりを知らせんとばかりに耳の側を風が通り過ぎ、赤とんぼが空中から影を落としている。
人差し指を立てた。とんぼが止まる。
「理佐ちゃんには全然止まらないね」
梨加は得意気に語りかけた。
「きっと私が美人で近づけないのよ」
理佐の言葉に、梨加は高い声で笑う。笑い声に誘われるように、二匹目が止まる。
理佐はカバンを持った。
「もう帰る」
「えー、待ってよ」
梨加もカバンを持って、追いかける。柔らかい土手の上を全速力で駆けてゆく。
何でもない石ころに蹴躓いて、転んだ。怪我はないけど、なぜか立つ気力もなくなった。
理佐が早歩きで遠ざかっていくのが見える。その姿が黄金に輝く太陽に重なっている。
風に短い髪が流されて、首のうしろが見えている。
「きれいだなぁ」
理佐に吹く風と同じ平行な角度で、梨加にも風が吹く。梨加は風に向かって目をつぶった。

「ねえ、ぺーちゃん、いっしょに帰ろうよ」
いつの間にか理佐が横にしゃがんでいる。
「帰ったんじゃなかったの?」
「あっち、家と逆の方向だった…」
梨加は笑う。
「もう、そんなに笑わなくてもいいじゃん」
怒った理佐の顔の上には、とんぼが乗っている。

美人で近づきにくいと評判の理佐に、初めて声をかけたのは梨加だった。
それから二人はずっと一緒にいる。でも、そんな日々は、やがて過ぎ去ってしまう。
もう終わりの時だった。

二人の前に影が伸びている。案山子の影も伸びている。
「ぺーちゃん居なくなったら、私、一人になっちゃうよ」
理佐が言った。下を見ている。梨加は顔を覗き込んだ。
「泣いちゃダメだよ」
「そうだよね…でもどうしたらいいんだろう」
「忘れればいいよ、私のことなんて」
「そっか…」
「辛くなったら連絡して、いつでも戻ってくるから」
理佐がうなずいた。梨加は左手で目を擦った。
二人を見送った太陽は、沈んでいった。


Can you catch a bird as she flies?
Can you steal the sun from the golden sky?

あの素晴らしい愛をもう一度 ブラザース・フォアVer.
https://www.youtube.com/watch?v=bxL1ql21Xks