彼女は窓の外に後ろ向きに落ちて行った。ゆっくりと……。

(高さは充分……)
菅井由香の波長が聞こえた……。

長崎さんは、落ちる菅井由香を見て激しく声をあげた。菅井由香の落下が一瞬止まった。
ロープが切れたように、菅井由香は再び落下していった。
僕は菅井由香の言葉を思い出した。
((いくらなんでも、落下する人間は支えられません……))

地上から……小さく……聞きたくない音がした。

長いのか……短いのか……とにかく、時間が経った。
いくつものサイレンの音が聞こえてきた。
僕と長崎さんは、呆然として互いを見つめていた。

現場にいた僕と長崎さんは、警察に話をいろいろと状況を聞かれる事になるだろう。

僕は長崎さんに話しかけた。
(まだ、わからないことがある……)
(なに?)
長崎さんが答えた。
(菅井由香はレベル0で波長を閉ざす事ができた。現に僕には聞こえなかった……)
(そうね)
(菅井由香はなぜ、レベル0で君に波長を聞かせないようにしなかったんだろう?)
(……それがルールだから……)
長崎さんは意味がよくわからない事を言った。

(それに、長崎さん……最初から僕に全て話してくれればよかった……)
僕が長崎さん……ねるに言った。

(てく……)
その時、ねるは僕に初めて笑顔を見せた。

(だって、それじゃゲームが楽しくないじゃない?)
(ダッテ、ソレジャ ゲーム ガ タノシクナイジャナイ?)

僕はその言葉、その笑顔に、とてつもない恐怖と不安感をおぼえずにはいられなかった……。

『てくねる』(完)