ブレーンワールド(その40)
ねるの体は光に包まて美しく輝いて、宙に浮きあがった。ねるの周りの空気が振動し、そのささやきのような音が快適に耳に響いた。
振動する空気は俺の体に触れ心地よくさせてくれた。えもいえぬ香りも漂ってきた。
視覚も聴覚も触覚も嗅覚も一体となり、俺はエクスタシーに達した。
だが、そのエクスタシーの魔力に俺は激しく抵抗し、全身を震わせ、力の限り俺は叫んだ。
「ねる!騙されているかもしれない。そっちの世界は戦争や飢饉にきっと満ちている!」
「そうじゃないことは確信しています」ともう手が届かなくなった高さにいるねるは言った。
「ねる、行くな!行ってはいけない!」
「ごめんなさい、でも私どうしてもアイドルになりたいんです、今までありがとうございました」
ねるは次元の裂け目に消えた。
おそらくこれ以上はないというくらいの醜態で俺は暗闇の中で泣き叫び続けた。
停電は回復しても俺は地面に這いつくばったままだった。
その俺に手を差し伸べてくえる者があった。それは同情の涙で溢れていた“ねる”だった。(続く)