ブレーンワールド(その17)
おいが15んなったときたい、見習いとして初めて兄貴ん船に乗った。
まん丸かお月さんが煌々と輝いて、波一つなか日やった。初めて漁に出るおいに気使ってそぎゃん日を選んでくれたんやろもん。
なんもやることもなく、おいは海に映ったお月さんば眺めとったたい。
そしたら、急にや、そんお月さんが二つに割れたと思ったら、船が横倒しんなり、おいも兄貴も海に投げ出されとった。
バスケットボールくらいの大きさの浮きをおいの方に投げて、『そいば服ん中に入れて、絶対、離すんやなかぞ』って叫んだ。
兄貴は別の浮きは持っとらんやった。15ん身で死んでしもうたら無下らしかと思うたんやろ、おいに浮きば譲ってくれたと。
服ん中に浮きば入れたそん後たい、海面が小山んごと大きゅうなっった。
宙に跳ね上げられた後ん海面にたたきつけられたと思うたら、今度は潮がおいの体ば海底近くまで叩きつけた。
そがんことが何回も繰り返されて身も心もへとへとんなとった。
ようやく海が治まった。それもものすごく静かんなった。先まであぎゃん荒れ狂っとた海がぞ、信じらるっか?
兄貴ば探そうと思って、辺りば見回したけど、なんも見えん。
波の飛沫が細こう飛び散って、霧ん中にいるんごたった。一寸先はなんも見えん。
海は静かやったけど、そぎゃん様子やったから、おいは死ぬのを覚悟しとったたい。
そしたら、どぎゃんしたことか、お月さんの光が当たって霧が銀幕んごとなって、そん中にそん紫か家が現れた。
急に力が沸いて、そん方向に泳げば助かるような気になっとうた。
そしたら、そん紫か家は逃げていくったい。砂漠でいう逃げ水のごたった。
ばってん、そんときはそがんこと考えんで、とにかく必死で紫か家が見える方向に泳いだ。
そしたら無人島が見えて、そこに上がってほっとした。
ようやく兄貴んこと考える余裕ができた。浮きば海ん中に投げて、「神さん、兄貴ば助けてやらんね」と叫んだたい。