『高1の軍曹』

「ちゃんとしてくれないと、困るんですけどー!」
隣のコートから怒鳴り声がした。声を聞いただけでわかる。
「守屋茜だ。」
守屋に怒鳴られ、3年の渡辺梨加ちゃんが泣いていた。守屋も泣いていた。キャプテンの菅井さんが二人をなだめる。幾度となく見てきた光景だ。

うちの学校は田舎町にあり、人口も少ない。テニス部は僕を含め7人。3年生はポンコツキャプテンの菅井さんと、もっとポンコツな渡辺梨加ちゃんの2人だ。当然チームはまとまらず、入部して2ヶ月の守屋が実権を握りつつあった。

練習が終わると、みんなで一緒に帰る。みんながそれぞれの帰路につくなか、守屋とは家まで一緒だ。隣の家だから。幼稚園からの幼なじみで腐れ縁みたいなものだ。みんなの前では「守屋」と呼ぶけど、2人のときは「茜ちゃん」だ。

2人きりになると、茜ちゃんはつぶやく。
「ホントはもっと優しくしたいんだけどね。」
暗くてよくわからないけど、多分泣いている。茜ちゃんは泣き虫だ。そして一度泣き出すと、号泣してしまう。僕はさり気なくタオルを渡す。顔を覆う彼女を見るのは100回を超えている。

 幼稚園のとき年上の男の子にケンカを売っておいて負けたとき、小学校の歌のテストで歌詞を間違えたとき、県大会の決勝で負けたとき、どれも悔し涙だった。
 でも、茜ちゃんは僕がイジメられていたときに助けてくれた。、僕の洋服がダサいと、ショッピングモールに一緒に行って服を選んでくれ、挙句のはてに僕のお金で自分のセーターを買っていた。

結局、この日もタオルは返してもらえなかった。でも、明日には笑顔で返してくれるはずだ。

「君はあと何回泣くのかな?
  君はあと何回笑うのかな?」

泣いているあかねんも好きだけど、できれば笑っていて欲しい。