「温めますか?」 ぽん民/作

仕事帰りに、コンビニに寄るのが俺の日課だった。別にコンビニが好きってわけじゃないんだけど、そこで働いている子に密かに恋心を抱いていたのだ。
アルバイトのゆいぽんとは挨拶を交わす程度だったが、仕事でイヤなことがあっても彼女の笑顔を見ると、何もかも忘れられた。
俺はいつからか、彼女に会うためにコンビニに通うようになっていた。

その日、俺は会社で大きな失敗をした。
部長には怒られ、後輩の女の子には笑われるはで、かなり落ち込んでいた。
今年いちばんの寒波も手伝ってか、
俺の心と体は冷えきっていた。

いつものように、コンビニに寄ると、
焼きそば弁当を持って、タイミングを見計らいゆいぽんのいるレジへ。

ぽん「あっ、こんばんは!」
俺「…こんばんは」
ぽん「えっと、こちら温めますか?」
俺「あっ、お願いします」

ぽん「………こちらも温めますか?」
俺「……えっ?」
ぽん「温め……ますか?」
俺「あっ…じゃあ、お願いします…」

ゆいぽんはそう言うと、
恥ずかしそうにうつむきながら、
俺の冷たい手をあたたかい手で
包みこんでくれた。

ぽん「なんか、元気なかったから……」

焼きそば弁当が温まるまでの間、ゆいぽんは
ずっと俺の手をあたためてくれました。