つづき

寸前のところでボディタッチは免れたものの、近距離で目が合う。
次の瞬間、茜ちゃんの手が飛んできた。

パチンッ!

ビンタというより、ほぼ殴られていた。柔道なら形勢逆転だ。茜ちゃんはそ
のまま袈裟固めを決めてきた。僕は朝の5時から何をしてるんだろう?と思
った。通行人はいなかったので、通報されずに済んだが、これは、ほぼ犯罪
行為だった。

「何、すんのよ!」それは、こっちのセリフだ。
「わかったから、離してください」それでも、茜ちゃんは僕を押さえ込み続
けた。非常にまずいことになっていた。茜ちゃんの胸が僕の耳に触れている。
「茜ちゃん、あの…」「何!?ギブ?」「ちがう…む、胸が」
一瞬で、女の子の表情に戻った。茜ちゃんは走り去って行く。

ちょうど、日の出の時刻を迎え、東の空に太陽が見え始める。茜ちゃんは、
東へ伸びる道を、まるで太陽に向かって走っているようだった。

遮るもの何もないから 込み上げる感情に正直になれるんだ

「今、茜ちゃんは何を考えながら走っているのだろう?」
茜色の空に向かって、そうつぶやいた。