つづき

「なんで、あいつ怒ってんだろう?」
「わかってあげなよ」
「え?」
「理佐ね、今、必死で取り戻そうとしているの。中学は別々だったんでしょ。
自分の中学校時代を必死で取り戻そうとしているの。ずっと、一緒だっだ
友達と別れるの、どれだけ辛いかわかる?理佐が泣いてるとこ、見たこと
ないでしょ?人前では絶対泣かないからね。慰めに行ってやんなよ。」

とりあえず、謝ろうと思った。志田さんの言葉には妙に説得力があったので、
このままでは、理佐ちゃんが遠くに行ってしまいそうな気がした。志田さんに
礼も言わず、必死で追いかけた。たぶん、屋上にいる。

ドアを開けると、理佐ちゃんは、屋上のベンチに座っていた。
理佐ちゃんは泣いてなんかいなかった。いや、少なくとも今は泣いていなかっ
た。やはり、僕の前では泣かないらしい。

「ごめん」
「どーせ、愛佳に言われて来たんでしょ。」
「うん。理佐ちゃん…」
「だから、りーさー」
「り…りさ、俺ね、理佐ちゃんのこと好きだよ。」
「わかってるよ、今更、そんなこと言われなくたって」

そう、今更だ。今の「好き」が告白ではないことくらい、僕も理佐ちゃんも
わかっている。

「愛佳に謝ってくるよ。ちょっと、からかっちゃったしね。」
「うん。あっそうだ、あの絵、本当に志田さんじゃないよ。」
「いいよ、気使わなくて。愛佳にあげなよ。」
理佐ちゃんは、そう言って階段を降りていった。

青いハンカチが、ベンチに置かれたままだった。幼稚園のとき、僕が理佐
ちゃんにプレゼントしたものだった。「りさちゃんへ」という下手くそな刺
繍がボロボロになり、何と書いてあるか分からない。手に取ると、ハンカチ
は少し湿っていた。たぶん、泣いていたんだろう。

今はハンカチを返さないでおこう。
なぜかって?君はすねて、受け取らないだろう?
来年の7月に新しいハンカチを買ってあげるよ。