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ところが、ある朝出勤して見ると医院の玄関に「閉院のお知らせ」と書かれた張り紙が一枚貼られていました。
従業員一同何も聞かされていないので、誰かのいたずらかと思っていましたが、時間が経つにつれて事の大きさに一同の顔が青ざめて行きました。
肝心の院長と連絡がつかないのです。鍵を持っていた従業員の一人が中に入ると、現金はおろか書類の類やレセプトまでも無くなっていました。
誰がどう見ても夜逃げです。私たちの給料も未払いのまま雲隠れをされてしまいました。どうやら院長は金融投資に失敗し家賃や機材のリース代を滞納していたようでした。
さらに不正請求にも手を出し、それが問題視される前に逃げたようです。

我々としては少ない給料でやりくりしていたため、貯金ができるような環境ではありませんでした。給料が入ってこないと自分のアパートの家賃も払えませんし、奨学金の返済もあります。
生活は一気に困窮し、生活費のためにアイフルの案内に手を出すまでに3日もかかりませんでした。
失業保険さえ出れば借入金も返済できるし、再就職までの繋ぎだと思って最低限の金額として2万円を借りる事にしました。
その間は職業安定所に通い、近所の激安スーパーで半額になったお惣菜で空腹をみたしながら生活をしていました。まさか、あいりん地区にいる日雇い労働者のような状況になるとは思ってもいませんでした。

失業保険の申請も雇用主が夜逃げをした事で、諸々の確認作業が手間取ったらしく予定を大幅に遅れて支給されました。
雇用主だった院長が失業保険に未加入だったり、給与を適切な処理をしていなかった事も災いしていました。
その間に家賃の支払い日や奨学金の返済期日は過ぎてしまい、さらにアイフルでの借り入れをしてしまいました。

柔道整復師としての夢とこだわりが捨てきれず、職安に通い希望の就職先を探す日々が続きました。働いていない期間が長引けばそれだけ返済期間も伸びます。
家賃と奨学金の支払日が近づくとアイフルに通うようになり、失業保険で返済するようになりました。
日を追うごとに徐々にとはいえ金利が膨らみ始め、気が付いたら失業保険だけでは賄いきれなくなってきました。