私は道を歩いていて、ときどきクスッと笑うことがある。
「ああ、自分は天下の自衛隊パイロットなんだ」と思うと、嬉しさがこみ上げてくる。
「事業用操縦士」
自衛隊パイロットが取得可能な国家資格である。
その言葉を聞くと、私は自然と身が引き締まります。
先輩方に恥じない自分であっただろうか・・・・。
しかし、先輩方は私に語りかけます。
「いいかい?自衛隊パイロット1人養成するのに5億円かかるのだよ」と。
私は感動に打ち震えます。
自費で事業用操縦士の国家資格を取得する相場が2千万である。
最近は金持ちのボンボンが、私大のパイロットコースで一般学部の学業とキャンパスライフの片手間に卒業までに取得できる資格である。夏休みにバカンスを楽しむがごとく空を飛んでいるという。
自衛隊パイロットはそいつらの25人分の5億の価値があるのであろう。
「自衛隊を早期退職してはならない。金目当てで民間航空に転職するのはだめだ。訓練にかかった費用を償還金として支払ってもらう」
私は使命感に胸が熱くなり、武者震いを禁じえませんでした。
嗚呼なんてすばらしき自衛隊パイロット。
知名度は世界的。人気、実力すべてにおいて並びなき王者。
素晴らしい実績。余計な説明は一切いらない。
「現在自衛隊パイロットで、事業用操縦士の資格を持っています」
と航空会社の人事に電話した
「よくいただく質問ですが、大学を卒業して自社養成採用枠を受験するか、私大のパイロットコースや航空大学校卒業生の枠で応募していただければと思います。他社で御勤務されている、定期運送用操縦士の資格をお持ちの機長の方や准定期運送用操縦士の資格をお持ちの副操縦士の方でしたら中途採用もさせていただいておりますが、自衛隊で事業用操縦士だけ取得された方の採用はしておりません」
若い新人の事務員のようだ。
「若い子では話にならん、もっと上と話がしたい」
還暦のお婆さん事務員に変わった。
「バブルの頃は事業用操縦士の資格で副操縦士も出来たので、自衛隊から転職するパイロットも多かったですけどね。今は准定期運送用操縦士の資格が無いと副操縦士にもなれないのよ」
自衛隊パイロットになって本当によかった。