私は道を歩いていて、ときどきクスッと笑うことがある。
「ああ、自分は天下の戦闘機パイロットなんだ」と思うと、嬉しさがこみ上げてくる。
ウイングマークを取得してから5年。
尖閣諸島周辺で中国軍機に無線で領空侵犯の英語警告を受けた時の興奮で夜も眠れない日々がいまだに続いている。
「男なら黙って戦闘機」
その言葉を聞くと、私は自然と身が引き締まります。
先輩方に恥じない自分であっただろうか・・・・。
しかし、先輩方は私に語りかけます。
「いいかい?戦闘機パイロット1人養成するのに5億円かかるのだよ」と。
私は感動に打ち震えます。
「自衛隊を早期退職してはならない。金目当てで民間航空に転職するのはだめだ。訓練にかかった費用を償還金として支払ってもらう」
私は使命感に胸が熱くなり、武者震いを禁じえませんでした。
でもそれは将来日本の航空業界をになう最高のエリートである私たちを鍛えるための天の配剤なのでしょう。
日本の航空業界を作りあげてきた先輩はじめ先達の深い知恵なのでしょう。
自衛隊を退職して民間航空会社に転職することにより、私たち戦闘機パイロットは伝統を日々紡いでゆくのです。
嗚呼なんてすばらしき戦闘機パイロット。
知名度は世界的。人気、実力すべてにおいて並びなき王者。
素晴らしい実績。余計な説明は一切いらない。
「現在戦闘機パイロットで、事業用操縦士の資格を持っています」
と航空会社の人事に電話しようとしても
「よくある質問ですが、一般大学を卒業して自社養成採用枠を受験するか、航空大学校卒業生の枠で応募してください。現在他社で勤務されている定期運送用操縦士の資格を持つようならパイロットの方でしたら中途採用もしておりますが、自衛隊で事業用操縦士だけ取得された方の採用はしておりません」
とマニュアル通りの返答で門前払い。
人事担当者にすら電話がつながらない。
転職活動のたびに味わう圧倒的な航空大学校卒業生の派閥力。
戦闘機パイロットになって本当によかった。