仏教の教えに「吾唯知足 : われただ足るを知る=今あるもので満足する」という言葉
がある。叶えられない望みをいつまでも抱いて不満に思っているよりは、その望みを
放棄して、現実の環境に適応した選好を持つ方が幸福につながる時もある。

イソップ寓話に出てくる狐は、高いところになっているブドウの房が取れないことを
悟ると、あのブドウは酸っぱいに違いないと言って、その場を去った。これを
負け惜しみと見ることもできるが、手に入らないものはさっさと諦めて、別のことに
取り組む潔い態度と理解することも出来る。幸福になる為には捨てて然るべき望みや
選好もある、という一つの洞察であろう。以上から、幸福とは現に持っている望みや
選好を充足させることだという幸福観は単純すぎることが理解出来るだろう。