ふと気が付くと、俺は病院で暮らしている。
いつからここで暮らしてるんだ?なんで入院してるんだろう?ていうか俺は誰?

そのうち、よく見舞いに来る女性がどうも自分の母親らしいと思い出した。
あんた事故に遭ったんよ、覚えてる?と訊かれても全く記憶にない。

事故前の最後の記憶は、雨の中、田舎道を時速130kmで走っていたこと。設置物に激突した自爆事故だった。
その瞬間は知らない。でもフロントガラスの破片が体中にめり込んでいたから、きっと痛かっただろう。

その後徐々に記憶が回復したが、なんというか、産まれて物心がつく過程を繰り返しているようだった。
ただ事故の瞬間だけは結局思い出せなかった。苦痛が大きいと脳が記憶を遮断すると誰かが言ってたが、そうなんだろうか。

最後の記憶のまま意識が戻らないのが死だとすると、死はそんなに怖ろしくない。
しかし事故死は自分の死を意識したり、受け入れたりする余裕がない。

俺の場合は自業自得だったが、事故に巻き込まれて死ぬ人は悔しいというか、納得がいかないだろうとは思う。;