「今あなたが住んでいるマンションの部屋、実は昔、住んでいた人が自殺したのよ……」。
ある日突然、ご近所さんからそんな事実を告げられたらどうだろう? それまでの何気ない日常が一変し、
夜間一人で過ごすときに居心地の悪さを感じるようになるかもしれない。
賃貸契約を結ぶ前にこの事実を知らされていれば、別の物件を検討したのに……と理不尽な思いを抱くだろう。
借り手としては、自殺のほか、事故死や不審死、孤独死などがあった場合も、
事前に教えてもらいたいと思うのではないか。
このような「ワケあり物件」の場合、貸主である所有者や仲介の不動産業者に説明義務はないのだろうか。
不動産問題にくわしい高島秀行弁護士に聞いた。
「前の住人が自殺したなど、借主が嫌悪感を持ち、住みたくないと思うような事情を、
法律上は『心理的瑕疵』と言います。『瑕疵』というのは欠点・欠陥という意味です」
このように述べたうえで、高島弁護士は次のように説明する。
「貸主や不動産業者は、『心理的瑕疵』がある物件の賃貸契約を結ぶとき、
借主となろうとする人にそれを説明する義務があります。
事前に説明がない場合、借主は賃貸借契約を解除して、
契約のために支払った権利金や仲介手数料、慰謝料などを損害賠償請求することができます」
高島弁護士によると、自殺のほか、腐乱死体や焼死体が発見されたことや、
殺人事件があったことなどが「心理的瑕疵」に含まれるようだ。
それでは、たとえば住人が自殺してから長期間が経過したようなケースではどうなのだろうか。
「自殺などがあったら、永久に説明し続けなければならないかというと、そうではありません。
新しい賃借人が入居・退去した後は、説明義務がなくなるとする判例もあります。
客観的には住める状態で、住居・物件として問題がないのであれば、残るのは心理的な問題だけです。
事件が風化して周囲の人も気にしなくなったりすれば、説明義務はなくなると考えられます」
冒頭で紹介した「実は昔、住んでいた人が自殺したのよ……」というご近所さんの話も、
その「昔」がいつなのかによって、貸主側に説明義務があるかどうかが変わってくるのだろう。