あれは幼稚園に入る前だったと思う。
赤い印のついたちょっと珍しい名も知らぬ虫(ワラジ虫)を10円ガム4個入りの箱に入れて飼おうとしているのを見たお袋が
「わらちゃんを狭い所に閉じ込めたら泣いちゃうよ。逃がしてあげなさい」
「わらちゃん?」
「落ち葉を小さく小さくして綺麗にしてくれるの。それに他の虫をいじめない臆病で優しい虫なのよ」と諭してくれた。
そして庭に放すとゆっくりと落ち葉の下へ帰っていった。

数日後庭で同じと思われるわらちゃんを発見。しかもすぐ側に猫が様子を窺っている。
危ないと感じ近づくと猫はわらちゃんから遠ざかった。
「よかったね。わらちゃん」
試しにわらちゃんに手を差し出すと指先から登ってきた。なんとも可愛い姿だった。

そのあとの後日談はなにもない。