午前1時過ぎ、ソレは音もなくやって来た
人っ子一人いない深夜の神社に辺りを窺うようなそぶりで現れる者は目標以外の何者でもない
おれはこの時を待っていたのだから、出遭えたことに歓喜すればいいだけだ
しかし、未知への畏怖が決してそれを許さない
古来より人は得体の知れないモノに恐怖する生き物であり、故に丑の刻参りなどちゃんちゃらおかしい三文儀式が存在し得るのだろう


30mほど離れた境内の一角から自衛隊よろしく、ほふく前進の姿で目標を監視している
暗闇ということもありハッキリと顔や姿を視認できないのだが、一つだけ断言できることがある

「ブタだブタ、今回の仕事はブタの監視だ」

推定体重0.1トン、愛用の大木の前にそびえ立つ姿は柱を仇に業を行う力士の如し
色んな依頼を押し付けられて色んな目標を追ってきたが目標が人間ではなくブタだったのは初めてのこと
はあ、おれも焼きが回ったかな…


…と哀愁が満ちてきたのも束の間、突如おれの耳に深夜には不似合いな「音」がこだました
もちろん哀愁でいとを唄うトシちゃんの歌声でもなければ、決してよろしく哀愁を唄う奥さん殺しの郷さんボイスでもない

「♪コーン、コーン」

耳をつんざくような打撃音、金属に金属を打ち付ける不快極まりない打撃音
1300年間鳴り止まぬ怨恨の響、この「音」は呪詛を代弁した術者の声に他ならない