>>174

>カーツワイルがたいへん夢想的な人物であることは見逃してはならない。
前掲書を最後まで読み通せばわかるように、彼はそもそもシンギュラリティの到来を、人間の身体を脱ぎ捨てた超知性が太陽系を超え光速を超えて広がり、
やがては宇宙全体を「覚醒」させるというおそろしく壮大な歴史のなかに位置づけている。人工知能が人間の脳を超えるのは、彼の考えでは知性の宇宙的進化の第一歩にすぎないのだ。
これはどう考えても政治やビジネスの指針となる話ではない。

 これはカーツワイル自身への批判ではない。『シンギュラリティは近い』は、21世紀に蘇った神秘思想の例として読めば十分興味深い書物だ。
カーツワイルはおそらくは、ニコライ・フョードロフ(19世紀ロシアの思想家)やティヤール・ド・シャルダン(20世紀前半のフランスの思想家)に連なるような、「宇宙主義」の思想家として位置づけられるべき人物だ。

 問題は、そのような神秘的な主張が、あたかも堅実な根拠に基づく未来予測のようにして、世界的に影響力のある政治家や経営者によってさかんに議論され続けていたことのほうにある。
それは、ほとんど現実味のない共産主義世界革命の到来について、政治家や哲学者が大まじめに議論し続けた20世紀半ばの状況にそっくりではないだろうか。