孤独のグルメSS 「シャーリーとチョコレート工場」 

五郎が出張なので2日間オフになった。とはいえシャーリーには帰る自宅も無い 
北関東の工場ツアーに参加している。見学した後に直売所でいろいろと買えるそうだ 
バスに乗ると休日の安心感からかすぐに寝てしまい、起きて15分ほどで工場へ到着した 
すさまじい速度でチョコが切り分けられて包装され、箱に自動で放り込まれていく 
何という事だ、こういうのは職人がやるものだと思っていた 

隣の房では風呂桶よりも大きいチョコ樽の中にクラッカーやパンが漬けられ、乾燥機の中に送られる 
他の見学者達がチョコレートバーの見学に移った後も、シャーリーはその場で眺めていた 
あんなに大量のクラッカーがあるということは、それを焼く人間がいるはずだ 
いや、きっとここと同じようにものすごい速さで機械が焼くのだろう 
そしてあの樽のチョコレートはずっと溶けたままだ。しかも色も変わっていない 
シャーリーはそれがとても難しいことを知っている 

「お気に召されましたか?」 
作業着の男がシャーリーに話しかける。頷いてシャーリーが答えた 
シ「チョコレートをずっと溶けた状態にするのは難しいはずです」 
ほう、と男が感心した様子になった。そのへんのオバチャンとは違う姿勢のようだ 
男「まあ、いったん大量に作ってしまえば冷めにくくなりますが、変色には今も悩まされます」 
シ「溶けている時は分からなくても、冷えると粉を吹いたりします。でも、ここのチョコレートはいつ買っても奇麗なまま」 
男も頷いた 
シ「あなたは、ここの職人ですか?」 
男「製造の責任者でして…まあ、これも一種の職人ですね。いやあ、仕事を分かる方がいらっしゃると嬉しいんです 
順路ではないのですが、こちらを見られますか?」 

こうして、シャーリー1人だけが設備や配管といった本当の工場見学を果たし、おばちゃん達とは土産売り場で合流した 
右手には自分用の菓子、左手には五郎が食べていたチョコあられの大袋を下げて帰路についた