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実現に近づく量子コンピュータ

 この「ワトソンの法則」をさらに加速することになる動きがもうひとつある。それが、量子コンピュータだ。

 IBMは、2016年に5Qビットの量子コンピュータを、クラウドを通じて一般公開。2017年5月には、16Qビットの「IBM Qシステム」を発表した経緯がある。
2017年11月にはIBMは商用向けの20Qビットの量子コンピュータの提供を発表するとともに、50Qビットの量子コンピュータを開発していることも明らかにしている。

量子コンピュータとは、0と1のビットによる論理演算を行うこれまでのコンピュータとは異なり、量子力学的な振る舞いを使って計算を行う新たな仕組みを採用したものだ。
量子ビットは、量子力学の法則に則って、1か、0かではなく、重なり合うような0−1、0+1という状態がありうるため、それによって、複数通りの可能性を並列に調べることができるという。

量子の安定化を図るために、絶対零度を実現する環境で動作させる必要があるなどの制限があったり、開発が難しいエラー耐性を備えた万能量子コンピュータの実現が、汎用的な利用には不可欠であったりといった課題があるが、
50Qビットに達した時点で、現存するスーパーコンピュータを上回る計算が可能になると言われている。

 IBMによると、量子ビットがひとつあがるたびに、性能は、2のn条で指数関数的に伸びることになる。
たとえば、50Qビットであれば、1000兆の状態が維持でき、60Qビットでは、100京の状態が維持できるという。さらに、200Qビットになると、全宇宙にある粒子の数を上回ることができる。

 ケリー氏は、「これまでとは比べものにならないほどの指数関数的な発展が見込まれるのが量子コンピュータ。第1世代のマシンだけで、IBMが過去60年に渡って開発してきたコンピューティング性能を凌駕するものを達成した。
さらに次のステップに進むだけで、指数関数的な発展が見込まれる。これまで一生をかけても解決できなかったことを、数秒で解決できるようになったり、一生涯をかけて発見できなかったことを短時間で見つけてしまったりする。
私自身、これによって、なにができるのかを想像することさえ苦労してしまうほどだ。金融、医療、製薬、運輸、流通といったあらゆる分野で応用でき、古典的なコンピュータでは解決できないような課題を解決できる」と語る。