広瀬正の、昭和8年を舞台にしたSF「マイナス・ゼロ」

「タカシ君、その、NH、じゃなくてJOAKの放送出力はどのくらいだっけ」
「第一放送、第二放送とも十キロワット。波長は第一放…」
「わかった。ところで、これから一緒に神田へ行かないか」
「神田へ行って、どうするの」
「ラジオの部品を買うんだよ」
「すごい!」
(中略)
俊夫は生き字引のタカシをつれて神田へ行き、二百円ほどかけて、部品を買いととのえてきた。
次の日は日曜日だったので、タカシが一日中手伝ってくれた。
「おじさん、これはスーパーヘテロダイン?」
「いや、AKの第一と第二を聞くだけだから、混信のおそれはないし、スーパーの必要はない。
 それより、音質をよくすることに心掛けるべきだ」
「フーン」
「ほら、これとこれをハンダづけしてくれ」
あまり凝ってもはじまらないので、224、227、226、245、280というごくオーソドックスなものにした。
これで、国産の六インチのダイナミック・スピーカーを駆動させるのである。
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とあるので、戦前から神田は電気部品街だったようだ。