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しかしその数か月後には、Aさんの行動を非難する幻聴や外出先で監視されているといった体験がはっきりと出てくるようになりました。
Aさんがまず経験した不眠は、統合失調症が発症する前の最初の変化として起こってきたものと考えられました。

さらにAさんには、1年ほどしてから急激に気分が高揚して過剰に活動的となる状態や幻聴や妄想の悪化とは別に、気分が急激に沈みこむといった気分の浮き沈みもみられるようになり、「統合失調感情障がい」という病気の特徴が次第にはっきりするようになっていきました。

その間、Aさんの診断は、「不眠症」から「統合失調症」、さらに「統合失調感情障がい」という形で変化していったことになります。

診断した私がこう書くのもどうかとは思いますが、こういったケースを誤診と考えるのはややむずかしいように思います。
特に初診の段階でその後の幻覚妄想や気分の変動を予測することは、今の知識や経験を総動員しても無理ではないかと考えるのです。

○後医は良医

後から診たお医者さんの診断が正しかった、それはそのお医者さんの腕がよりよかったからだという話をしばしば耳にします。
しかし、後から診る医師はそれまでの経過を踏まえて判断できるので、医師の力量が同じでも、より正確な診断に近づきやすいわけです。

最初の診断にもとづいて治療を行い、その反応で別の病気を考えるという過程は正確な診断にはとても大切なことですので、別の医師の意見を聞きたいときは、それまでの医師がどのように考え、どんな治療をしたかがはっきりするような紹介状を書いてもらうことを強くお勧めします。

○正しい診断が出にくいのは?

これにはさまざまな要因が影響しますが、発症から間もないケースというのは代表的なものかもしれません。
Aさんもそうでしたが、初期には医師が診断の根拠とする症状が揃っていない場合も珍しくありません。
一時期しか起こらない症状もあり、再び起こるまでは診断が明らかにならない場合もあります。

また、うつ状態で始まる病気はかなり幅が広く、
最終的にも「うつ病」である方、
その後躁状態があり「双極性障がい」と診断される方、
「統合失調症」の始まりがうつ状態である方などは、診断が途中から変わる可能性が高いかもしれません。
また、うつ状態が「認知症」の始まりであることはよく知られた事実です。
※うつ病についての書籍 →当事者・家族のための わかりやすいうつ病治療ガイド

医師が把握できる情報に偏りがあることも診断がきちんと行えない要因になります。
患者さんの困っている症状を医師がきちんと聞かないのは問題外ですが、診断に必要な症状と当事者が困っている症状が必ずしも同じとは限らないのです。
特に軽い躁状態は、当事者があまり困っていないどころか、むしろ「調子がよい」と認識されがちで、ご本人からはあまり語られることがありません。
そのため、躁状態の存在に医師が気づかないままに時間が経つことは珍しくないように思います。
※双極性障害(躁うつ病)についての書籍 →双極性障害Q&A 人生行ったり来たりがリカバリー!

また、「こんなことを言うと病気だと思われるから…」という不安から、数年前から幻聴があったことを口にできなかった患者さんもいました。
自分の体験を医師にすべて伝えるのはむずかしいことですが、家族や支援者の協力を得ながら診断に役立つ情報を医師に伝えるのは、正しい診断への近道といえるでしょう。

○診断が心配になったら

苦しいのがなかなか楽にならない、自分と似た症状のBさんは違う病名らしい、今の薬を調べたら自分とは違う病気の治療薬のようだ…など、「ひょっとしたら自分は違う病気なのではないか」と心配になることがあるかもしれません。
少しでも正確な診断のもとで症状が改善すればと思うのは自然なことです。

そんなとき別の医師の意見を聞いてみる、いわゆるセカンドオピニオンを受けるのは一つの解決の手段です。

その場合には、先にも述べたように今の主治医に紹介状を書いてもらってください。
なかなか頼みづらいという方もいますが、自分で把握している症状以外にも診断に役立つ情報を医師がきちんと伝えることは、セカンドオピニオンの医師の判断にとても重要なことがあります。
前の医師からの情報がないと、何人の医師に診てもらっても同じ診断のくり返しになってしまうことにもなりかねません。
勇気が必要と感じる方もいるでしょうが、ぜひ主治医に求められることをお勧めします。